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10-11
エレベーターを降り、四〇二号室へと続く広い廊下を歩きながら、さっきエヴァンと交わした一言一句を必死に思い返していた。特にやましいことを言ったつもりはないが、好きな相手に聞かれる会話としては、思わしくない発言もあった気がする。そして多分、結月はそれを聞いてしまったのだ。でなければ、あの反応の説明がつかない。
「あー、くそ……っ」
夜遊びも止め、時間をかけてようやく、気を許してもらいつつある頃だったのに。また、振り出しに戻るというのだろうか。
「結月、ただいま」
内心の焦りを抑えつけ、晃大はなるたけ自然な素振りで部屋に足を踏み入れた。やましいことをしていないのだから、変によそよそしい態度を取るのは逆効果だと判断した次第だった。
しかし、返事は聞こえない。「か、帰ったのか!」という、いつものそれさえも。結月はなにをするでもなく、部屋の真ん中に突っ立って俯いていた。
「ちょうど、エヴァンも帰省から帰ったとこだったみたいでさ。久しぶりに会ったから、ちょっと立ち話してたんだよ。知ってるか? あいつ今、ルームメイトの朔実ってやつと付き合ってんだって。帰省ってのも、朔実の実家のことだったらしくて……」
なんでもないことのように語りながら、手に持った荷物を下ろしていく。独り言でも言っているかのような静けさに、胸の奥がざわついた。
「ああ、そうだ。ほらこれ、ラケット。おまえも取ってきたんだろ? 近いうち、また予約取って一緒に――」
「……行かない」
「へ?」
壁に立てかけようとラケットを持っていた手が固まった。
……聞き間違い、だろうか。そうであってくれと願いながら、晃大は結月と真正面から向き合った。俯く結月の睫毛が、わずかに震えて見えた。
「結月……?」
そっと、手を伸ばす。直後、はっと顔を上げた結月に、勢いよくその手を振り払われた。
「気安く触るな!」
「結月……っ」
少し前にエヴァンの口から聞いたそれとはまるで違う、本気の拒絶だった。
「俺、やっぱりおまえとは仲良くできない」
「は?」
「……もともと、苦手だったんだ。おまえみたいなチャラチャラしたやつ。調子のいいこと言って、とっかえひっかえいろんな相手と寝まくって。そういうやつがそばにいると思うと……気分悪い」
落とされた言葉を、まるで、夢でも見ているかのような気分で聞いていた。釈明も、反論も浮かばなかった。無理もないだろう。結月が口にした内容は、およそ的確に晃大という人間を言い表しており、最後の一言に関しては、ただの素直な感想だ。
気分が悪い――。結月は晃大に対し、そう思っているのだ。
「……」
「テニスには行かない。片付けも、これからはちゃんと自分でする。だからもう、話しかけてこないでほしい」
明確な意思表示をされ、その瞬間にはもう、晃大はそれに同意する形になっていた。一言も言葉を返せないでいるうちに結月はさっと視線を逸らし、ベッドに横になってしまった。
呆然と華奢な背中を眺めながら、じわじわと、指先から体温が失われていくのがわかった。
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