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勃たない――。それは、メスの子孫に遺伝子の多様性を齎すという目的で派生したオスにとって、致命的な欠陥である。もちろん、勃とうが需要のない精子や、もとはといえば需要があったが、年齢を重ねるとともに劣化して需要がなくなった精子など、むしろ射精できてしまうことのほうが恐ろしいケースも多々あるので、『勃つ』という事実そのものに価値があるとは、一概には言い切れないのだが……。
「なにそれ」
情欲をそそるピンクの照明に照らされたキングサイズのベッドの上、裸で片膝を立てて座る女が一人。晃大の股間を見て吐き捨てた。
「なにそれ、って……ちんこだけど……」
「見りゃわかるわ。じゃなくて、なんで勃ってないのって訊いてんの」
それはもう、晃大が訊きたい。ねえねえ、どうして勃たないの? ちんこと会話できるなら、すぐにでもそう確認を取って、原因を突き止めている。
しかし、言わずもがなちんこと会話なんてできるはずもなく、質問に対し返答を述べられるのは、そのちんこの持ち主である晃大しかいない。いないのだが……。
――まっじで原因がわからん……。
黙り込む晃大を前に、正面に座っていた女性――前々から何度か晃大に声をかけてくれていたナイトクラブの客である{美桜|みお}は、あからさまなため息を零した。
「晃大くんがEDになったって噂、ほんとだったんだ」
突き付けられた、男の矜持をへし折るには十分すぎるワードにも、依然として、晃大は黙り込むほかない。
「それとも、そんな情けないツラ晒すほど、私のことタイプじゃなかった?」
「いや、それはない。美桜ちゃんのことはマジでタイプ」
ワンレンロングの綺麗なお姉さん系。お世辞抜きで、好みのタイプだ。
「じゃ、やっぱEDじゃん」
綺麗なお姉さんは、往々にしてはっきりとモノを言う。遡ること四日前、「ま、まあ、そういうこともあるよね……」と口角を引きつらせながらホテルを去っていった女の子とは一味も二味も違った反応だった。
「私は、『本命ができたから夜遊びはやめた』に一票だったんだけど。やっぱ{華蓮|かれん}の言う通り『女心を弄んだ罰でEDになった』がほんとだったのね」
残念、と肩を竦めて、美桜はベッド脇に脱ぎ捨てていたブラジャーを着け始めていた。
見捨てないでと懇願したいところだが、徐々に覆い隠されていく胸も、股間も、すでに三十分近くかけて隈なく触らせてもらった。舐めさせてももらった。自らのテクで感じている相手を見ることこそが、最も健全で、正しい勃起への手順だ。
たとえば晃大自ら、あそこを舐めてほしいと頼めば応えてくれる女の子もいるにはいるだろう。しかし、そんなのは所詮、人間特有のバグである。メスがオスに奉仕する――そんな主客転倒がデフォルトになれば、生物は退化する一方だ。
もし女の子に舐めてもらうことで勃起できたとしても、そこで満たされるのは性欲ではなく、征服欲くらいだ。ありもしない優越感に浸らなければ勃起しないちんこなんて、大人しく萎れているのが筋ってもんだろう。
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