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 最寄駅から電車で約五十分。人生で初めて訪れた駅のホームは、想像していた五倍くらい人が多く、栄えていた。 「ここ、マジで埼玉か……?」  晃大の知っている埼玉は、もっとこう、地味で田舎臭いイメージだったのだが……。  立ち止まり、意外な光景に目を奪われていると、数メートル先にいる二人組の女の子と目が合った。  女の子たちはハッとした表情を浮かべ、たちまち晃大から目を逸らす。その後、仲良く顔を見合わせたかと思うと、なにやらキャッキャと盛り上がっていた。 「……」  さっとキャップのツバを下げて、晃大は目元を覆い隠した。口元には、黒色のマスクを装着している。できれば身長も、今だけ百七十二センチくらいに縮めておきたいくらいだが、物理的に不可能なので諦めるほかない。  普段なら絶対にしない猫背歩きで改札を通り抜け、ポケットに入れていたスマホを取り出した。 『では、9月13日の金曜日。午後5時に大宮駅で』  待ち合わせ相手と最後に交わしたやりとりを確認し、画面右上に表示された現在の時刻を確認する。四時四十六分。余裕はある。がしかし、この人ごみの中から待ち合わせ相手を見つけるのはなかなか困難なことのように思えた。 『もう来てる?』  一度、人の邪魔にならないところで足を止め、待ち合わせ相手にメッセージを送った。 『来てます。まめの木のところにいます』 『まめの木?』  栽培しているのだろうか。 『銀色のうねうねしたオブジェです。改札出たらすぐ見えると思います』  スマホから顔を上げて見てみると、それらしきオブジェと、その周辺を取り囲む人の群れを発見した。  ――ああ、あれね……。  ハチ公的な待ち合わせスポットらしい。あそこに立っているうちの一人が、待ち合わせの人物ということだ。 『オブジェ発見。服なに着てる?』 『白のTシャツに、水色のジャケット。ジーパンです』  地味な格好だと、自分も負けず劣らず地味――というか、目立たない格好をしてきておいて晃大は思う。 「水色、水色……」  白Tもジーパンもなんの目印にもならなそうなので、水色のジャケットだけを頼りにきょろきょろと辺りを見渡した。  ――お、あれか。  思ったと同時、数メートル離れたところでスマホをいじっていた青年が顔を上げる。視線がかち合うなりパッと目を見開く動作で、彼が待ち合わせの人物で間違いないことを確信した。 「あー、っと。サキくん……で、合ってるよね?」  話しかけると、ビクッと青年の肩が跳ねた。 「あっ、は、はいっ、すみません……っ、サキです。えっと、そちらは……{権三郎|ごんざぶろう}さん、ですよね……?」 「え? あ、ああ。そうそう、権三郎。権三郎です」  咄嗟に「誰だそれ」とツッコみかけたのを堪えて、晃大は肯定した。目の前に立つ小柄な青年――サキの前では、晃大は『権三郎』として振る舞わなければならないのだ。  ――なんか、もっとまともな偽名にしとけばよかったな。  本名とは似ても似つかない名前を……と思い、かなりテキトーに決めた偽名だったので、リアルでそう呼ばれることを想定していなかった。

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