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「あ、あの……」  背後からかかった声に、ぴくりと肩が跳ねた。 「お、お金……ほんとによかったんですか?」 「ああ……。いいよ、誘ったの俺だし」 「それはまあ、そうですけど……」  サキと初めて連絡を取ったのは、およそ一週間ほど前のこと。 『失恋した相手と似てるんで、会ってもらえますか』 『権三郎』という適当なアカウント名に加え、『181 71 21 凸』という嘘偽りないスペックを記載した即席の捨て垢を作り、送りつけたDMは丸二日間、スルーされていた。やはりこんな馬鹿げたことするべきじゃなかったと、アカウントごと闇に葬ろうと考えていたそのときに、幸か不幸か、返事は送られてきたのだった。 『プロフィールはほんとですか?』  やりとりの相手はいうまでもなく、結月に似たアイコンの彼だ。見つけてすぐは慌てて画面を閉じたけれど、それから三日ほど悶々と悩み続けた挙句、半ばヤケクソになって、連絡を取るという選択をした。  その後、プロフィールの内容に嘘がないこと、東京在住であることなどを伝え、五日後の今日、さっそく駅で落ち合うことになった。もちろん、ただ会ってお話をしにきたわけじゃない。それはお互い、承知の上だ。  しかし……。 「あ、えっ、と……鞄……鞄はどこに……」  部屋の入口で立ち止まったまま、両手でリュックを抱えておろおろするサキを見て、思わず眉が寄った。ネットでセックスの相手を探しているくらいだからそれなりに経験豊富なやつだと思っていたのだが、さっきからやけに挙動不審だ。 「確認なんだけど……俺が初めて、ってわけでは、ないんだよな?」 「えっ! ……あっ、はいっ!」  ほんとか? と疑いたくなるような間があったが、本人がそう言うなら、そういうことにしておこう。初対面の男のケツの初めてなんて、とてもじゃないが請け負えない。エヴァンほどとはいかずとも、ある程度慣れた相手と、さくっと試して帰りたいのだ。自分が本当に、『男が好きな人種』なのかを……。  手際の悪いサキをさっさとシャワーに誘導し、入れ替わりで自分もちゃちゃっと体を流して部屋に戻ると、途端に緊張した空気が漂った。 「んじゃ、やるか」  女の子相手なら絶対に口にしないようなセリフを吐いて、サキをベッドに押し倒す。 「髪まで洗ったの?」  問いながら、シャンプーの香りがする短い髪を梳くように撫でた。結月より、色素の濃い黒髪――。 「へ、変、でしたか……?」 「んー? まあ、いいんじゃね?」  すっとバスローブに手を差し込み、華奢なウエストを擦った。 「んっ」  華奢といっても、女の子ほどではない。女の子みたいにくびれてもいないし、柔らかくもない。けれどまあ、そういうのはエヴァンで慣れている。問題は、女の子相手で勃たなくなってしまった自分が、男相手なら勃つのかということだ。それを確かめたいがためだけに、晃大は今日、こんなところまで足を運んだ。  バスローブをはだける。アイコンで見た通りの位置に、ほくろがあった。結月より、一センチくらい下にあるほくろ――。  初めて見たとき、結月と似ていると思い、反射的に興奮が搔き立てられた。けれど、いざ本物を目の当たりにすると……不思議なくらい、なにも感じない。どころか、ここが違う、ここも違うと、最低なくらいに結月と比較して、違う点ばかりに気が散ってしまう。 「権三郎、さん……?」  呼ばれて、はっとサキの顔を見た。 「権三郎?」  誰だそれ、とまた性懲りもなくツッコみかけて、ああそうそう、俺が権三郎でしたと晃大は我に返る。 「なんかそれ、萎えるから晃大でいいよ。晃大って呼んで」 「コウタ……さん?」 「いや、『さん』付けはちょっと……」  結月なら、そんな改まった呼び方はしない。 「コウタくん……」 「……」  なんだかもう指摘するのも面倒臭くなって、それでいいやと割り切った。

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