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しかし、晃大は知っている。結月が本当は、ものすごーく自分とペアを組みたかったことくらい。なぜなら昨夜、就寝前のこと……。
(なんか、思いのほか大勢になっちゃったな。明日のテニス)
結月を自身のベッドへと連れ込み、もういくらか板についた動作でその髪を撫でながら、晃大はぼやいた。
(おまえが大誠と郁人も誘えばって言ったからだろ)
(だって、おまえとダブルス組んでみたかったし)
けれどまさか、その誘われの身である大誠が朔実を誘い、誘われの誘われの身である朔実がエヴァンを誘い、それを聞きつけた双子が自分も自分もと名乗り出て、保護者でもある榊も道ずれにし、およそ自分一人では面倒を見切れないと判断した榊が剱崎にまで参加を促すことになろうとは、思ってもみなかったのだ。
(明日、無事ペア組めるかな)
これだけ人が増えたとなると、思い通りにはいかないかもしれない。
(普通に、部屋割りで組もうって言ったらいけるだろ)
(けど、俺らからそれ言うのってなんかずるくね? 経験者俺らだけだし、マイラケットまで持参してさ)
(……まあ、顰蹙は買うかもしれないな)
(だろ? 絶対ストレート勝ちするし)
(俺がいるからな)
(俺もいるけどな)
むにっと、生意気な結月の頬を軽く摘まんだ。そこから数分間ほど、「おまえはダブルス未経験だからボロが出る」とか、「元エースの実力ナメんなよ」とかくだらない小競り合いを続けた後、はっと、結月がひらめいた声を出した。
(いいこと思いついた!)
(いいこと?)
こくりと、結月は自信満々で首を縦に振った。
(グチョパで決めよってこっちから提案して、俺らだけ、前もって出す手を決めてればいいんだ!)
普通にイカサマだった。とはいえ、異論なし。
(いいな。じゃあ、グー、チョキ、パーの順で……)
(馬鹿野郎っ!)
(暴言……)
結月はなにやら勢いづいたようにベッドから身を起こし、だんっ、とシーツを拳で叩いた。
(グー、チョキ、パーなんてわかりやすいサイクルで回して、イカサマがバレたらどうするんだ! 顰蹙なんてレベルじゃないぞ!)
(確かに)
同様に身を起こして、晃大も真剣に結月の作戦に耳を傾けた。
(イカサマをするからには、絶対バレないようにしなきゃならない。たとえどれだけ不自然に結果が偏っていたとしても、まさか、でもそんなことできるわけ……って、思わせる必要がある!)
ギャンブラーなのか。
(てことで、今から一緒に暗記するぞ! 順番はこうだ! グー、グー、パー、チョキ、パー、チョキ、チョキ。パー、チョキ、グー、パー、パー、チョキ、グー!)
(ま、待て待て待て。ゆっくり言ってくれ。パー、パー、チョキ、グー、グー、チョキ、パー?)
結月に倣い、手のフリも合わせて復唱を試みるが、暗記は晃大の得意とするところではない。すかさずヤジが飛んできた。
(ちがーう! もっかい一からだ! チョキ、チョキ、パー、チョキ、グー、チョキ、パー。グー、グー、チョキ、パー、グー、チョキ、パー……って、あれ? おかしいぞ。たしか、最後はグーで終わってた気が……)
暗記が苦手そうなやつがここにも一人。
お世辞にも頭がいいとはいえない二人で、都度、変わる呪文を唱えながら、二十分も経つ頃には揃って寝落ちしていた。
朝が来て、もうシンプルにグー、チョキ、パーの順で出そうぜと晃大が言うと、ううむと結月が頷いた。イカサマがバレようがバレまいが、二人で組む、ということが重要だった。
とはいえ、いざ実践したグチョパでは、なぜだかその場にいる全員がグー、チョキ、パー、の順でしか手を出さないという珍事件が発生し、それぞれが困ったようにルームメイトと視線を交わしているところ、「キリがないから、部屋割りでペア組むか」と榊が苦笑して提案してくれたことで、無事、ペア決めは終息したのだが。
なんにせよ、自分からあんなしょうもないイカサマを持ち掛けてくるくらいには、結月も晃大と組みたいと思ってくれていたのは間違いないのだ。望み通りペアを組めたにもかかわらず、テニス初心者の剱崎、榊ペアに負けるとは思ってもみなかったが……シングルスとダブルスは、まったくと言ってよいほど別の競技だった。
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