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「じゃ、お言葉に甘えて。俺も一杯貰うわ。とりまレモンサワーで」  もとより、晃大はアルコールに強いので、酒を飲んだからといって人格が変わるタイプでもない。それ以前に、クラブで提供されるテキーラやウォッカに比べれば、サワーやハイボールなんて水同然だ。そのぶん、酔って暴れ出す客を羽交い絞めにしなくて済むけど……と、煽ったジョッキは十分もしないうちに空になっていた。 「御子柴先輩、酒強そうっすよね。やっぱ、クラブでバイトしてるからっすか?」  タッチパネルで赤身マグロと追加のレモンサワーを頼もうとしたとき、大誠に訊かれた。彼とは、初めてジムで話しかけられたとき以降もちょくちょく遭遇し、トレーニングマシンの使い方を教わるなどして、それなりの面識を持つようになっていた。 「ん? ああ……俺の場合、わりと最初っからこんな感じだったけど。体質じゃね?」 「ひえー、かっけー。酒に強い男って、モテそうっすよね。俺どうなんだろ。まだ飲んだことないからわかんないな」 「へえ……大誠、そんなにモテたいんだ」  ちまちまと最初に注文した一杯を飲んでいた郁人が、なにやらジトっとした目で大誠を睨みつけた。  ――酔ってる……?  あの量とペースで?  訝しむ晃大とは対照的に、大誠はけろっとした口調で答えた。 「そりゃモテたいだろ。まあ、今すぐ彼女ほしいかって訊かれたら、そうでもないけどさ」  その返答に、さきほどにも増して郁人の目が据わった。  ――怒ってる……?  けど、なにに対して?  注意深く観察する晃大とは裏腹に、大誠はなおも、あっけらかんとした態度で続けた。 「あ、でも、一回クラブとか行ってみたいよな。逆ナンとかされちゃったりして。二十歳んなったら、御子柴先輩のバイト先行ってもいいっすか? けどやっぱ、ああいうとこは遊びの人しかいないのか――」  言いかけて、ふと、しまったというふうに大誠が口を噤んだ。 「あー、いや、すんません。客……客の話っすよ。仕事でやってるってのとは、また訳が違うんで……」  気まずそうに訂正され、あながち違うとも言い切れない自分に落胆した。むしろ、そういう客相手に仕事をしている自分は、大島で言う猿山のボスみたいなものなのかもしれない。 「実は俺、バイト変えようと思っててさ」  口にした直後、えっと結月が振り返った。大誠も驚いたように目を瞬き、郁人に関しては、未だ不貞腐れた表情で大誠を睨んでいる。 「え、それってなんで……」  訊きつつも、薄々事情を察したらしい大誠の目が、ちらりと結月のほうを見た。その視線を受け、結月はさらに戸惑ったような表情を浮かべる。 「や、別に深い理由はないんだけど。今、俺の好きなブランド扱ってるショップが求人出してんだよね。知り合いの伝手もあるし、そっちに乗り換えんのもアリかなーって」 「へえ、ブランド。たしかに、御子柴先輩おしゃれだし、似合いそうっすね。もう応募はしたんすか?」 「いやまだ。しようかなとは思ってるけど」 「人気なとこならすぐ決まっちゃうんじゃないっすか?」 「間違いない。から、明日でも知り合いに連絡してみよっかな」 「おお、ガチじゃないっすか」  とんとん拍子で会話する晃大と大誠に、ふと、結月が焦ったように口を開いた。 「ま、まてまて晃大。……いいのか? そんな簡単に今のバイト辞めて。あとで、やっぱあっちのほうがよかったって後悔したって遅いんだぞ」 「じゃあ、結月はどっちのほうがいいと思う?」  目を見て訊き返すと、今日一番の困惑した表情を結月が浮かべた。 「お、俺に訊いたって、仕方ないだろ。おまえの人生なんだから……」 「人生って」  大げさだなと、笑って見せたが、結月は笑わなかった。  運ばれてきた二杯目のジョッキが、晃大の目の前にだけ置かれる。 「……ま、おまえの言う通りだな。自分のことは、自分で決めねえと」  取っ手に指をかけ、ぐびっと冷たい酒を煽った。今夜はいつもと違い、アルコールの回りが早い気がした。

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