119 / 137

12-6

 寮に帰ったあと、せっかくだしみんなで大浴場に行こうという話になったのだが、晃大と結月は断って五階のシャワールームを使うことにした。隣同士の個室でそれぞれシャワーを済ませ、戻った四〇二号室のベッドに腰掛けて晃大は言う。 「あー、すっきりした。結月、髪乾かしてやるからこっち来いよ」 「ん……」  普段、髪を乾かす習慣のない結月だが、こうして一緒にシャワーから戻ったときは、頼めばドライヤーを任せてくれる。ちょこんとカーペットに腰を下ろした結月の髪を指で梳き、晃大はドライヤーのスイッチをオンにした。  温風が細い髪を揺らし、水分を散らす。無防備に晒された細い首筋を見ていると、キスをしたくなる。そんなことをしたら、次からドライヤーを任せてくれなくなりそうなので絶対にしないけれど。 「……おまえは、みんなと大浴場行ったらよかったのに」  髪を乾かし終え、静かになったタイミングで結月がぽつりと呟いた。 「んー? まあ、酒入ってるし。湯舟つかれないなら、シャワールームで十分だろ」 「それはそうかもしれないけど……」  思うに、結月は大浴場が苦手だ。本人の口から直接聞いたわけではないけれど、なんとなく、理由もわかる気がする。わざわざ確認を取ったりはしない。けれど、みんなで大浴場に入ろうという流れになったとき、戸惑っている結月を黙って見ていることはできなかった。 (俺、明日バイトなんで、今日は手っ取り早くシャワールームで済ませようかな。結月はどうする?)  結月は一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、ほどもなく、俺もそうすると同意した。ちなみに、現時点での晃大のバイトは言わずと知れたナイトクラブなので、出勤は夜九時だ。明日バイトだから……という理由で風呂を断るのはやや不自然ではあるが、そういう細かいことは、気づいても言わないのが大人ってものだろう。 「みんなには、明日バイトだからって嘘ついてた」 「嘘ではないじゃん。明日、ほんとにバイトだし」 「九時からだろ、夜の」 「ああ、朝の九時と勘違いしてたかも」 「嘘つけ」  ばっと、背後を振り返って睨まれた。  ほかのみんなスルーしてくれたのに、結月だけはスルーしてくれないみたいだ。困った困ったと、なにやらぶすくれている結月を後ろから抱きしめた。 「なんだよ。俺とシャワールーム行くの、そんなにやだった?」 「別に、そんなこと言ってない」 「じゃあいいじゃん。俺は、おまえの裸とか誰にも見られたくないし」  かと言って、自分だけ見せてもらえる、なんてことも今のところないのだけれど。 「な、なんだよそれ……っ。変な言い方するなっ」 「変な言い方って?」 「っ、裸とか……っ、見られるとかっ!」 「あー、それはごめん」  謝罪しつつ、顔を寄せてキスをした。 「っ――」  一秒、二秒。大きく目を見開いた結月の髪を撫で、唇を離す。 「俺も髪乾かすから、ちょっと待ってて」  もう、早く抱き合って横になりたかった。ちなみに、ここでいう『抱く』は、抱擁するという意味での『抱く』だ。  交際を始めて以降、晃大がバイトのない日は、一つのベッドで寝るようになった。例によって例の如く、晃大のほうからお誘いし、一緒に寝てやらないこともないこともない、こともない的なノリで、なんだかんだ二人で床に就くのが習慣になりつつある。

ともだちにシェアしよう!