121 / 137
12-8
「ん、あ……っ、あっ!」
指先が左胸の先端に触れた途端、蕩けっぱなしだった結月の目が大きく見開かれた。
無言で見つめ合うこと数秒、晃大はそろりと、さりに奥へと指を伸ばす。
「あ……あ……」
やがて、晃大の大きな手が結月の左胸全体をそっと覆いつくしたとき、結月はぎゅっと目を瞑って腰を丸めた。
「んっ――」
そこで、晃大は動きを止めた。触れた手のひらに、全神経を集中する。
そして一言――。
「やっぱ、酔ってるな、おまえ」
「へ……」
声を漏らした結月が、顔を上げて目を瞬いた。
「体熱いし、心臓も超バクバク言ってる」
寿司屋にいるとき、少し目を離した隙に、結月が晃大のレモンサワーに口をつけていたのだ。気づくなり慌てて止めたので、中身はそれほど減っていなかったが……。
「そ、それは……っ、お酒のせいなんかじゃっ――」
「美味かった?」
服から手を引き抜いて、晃大は尋ねた。その際にまた指先が乳首を掠め、ピクンと結月の腰が跳ねた。
「ん……っ」
「なんで飲んだの」
晃大はもう一切、性的な感情を纏わぬ手つきで結月の頬に触れた。
「間違えただけって、言ってる……」
間違えるような見た目ではなかったはずだが。それに、飲めばすぐに気づくはずだ。
「不味かっただろ」
ただの興味本位ならいい。だが、もしそうじゃないのだとしたら……。
「背伸びすんなよ。おまえには、リンゴジュースのが似合うって」
冗談めかした口調とともに、ぷにっと、柔らかな頬を摘まんだ。直後、キッと目つきを鋭くした結月に、その手を思い切り振り払われた。
「子ども扱いするなっ!」
「してない。ダメな大人になるなって言ってるだけ」
どうやら本気で怒っているらしい結月に、だったらと、晃大も少し真面目なトーンで返した。
「……なんだよ、それ」
俯いた結月が、ややあって、ぽつりと付け足す。
「おまえに言われたくないし……」
その通り過ぎて、一瞬、言葉を返せなかった。
しかし実際、自分がダメな大人だからこそ、結月にはそうなってほしくないという思いが強いのだ。自分勝手だとは思うし、どの口が言っているんだって自覚もある。だけれど一番あってはならないのは、そんな自分と付き合うことで、結月に悪影響を及ぼすということだ。それだけは、あってはならないことだと晃大は思っている。
たとえば大誠。あいつは酒に強い男に憧れている節があって、クラブにも興味を示していた。今後あいつがクラブにハマって酒と女に溺れるダメ人間になろうと、そんなのは知ったこっちゃない。が、もし結月が少しでもそういう世界に興味を持っているというのなら、晃大は全力でそれを阻止する必要がある。その差は単純で、大誠はただの寮の後輩、結月は初めてできた、年下の恋人だからだ。
「……ま、間違えるような位置に置いてた俺が悪かったよな。ごめん」
チュッと音を立てて、形のよい額にキスをした。
お子様の手の届くところに置かないでください――と、缶チューハイなんかでもたまに書いてあるのを忘れていた。晃大の責任だ。だから晃大が謝って、この話はもうおしまい。
「さ、もう寝ようぜ。明日、おまえは昼からバイトだろ」
「……」
なんだかまだ少し物言いたげな結月の唇に、今度こそ、一日の最後を締め括る『おやすみのキス』をした。けれど晃大が眠りに就いたのは、その後しばらく経って、腕の中の恋人が寝息を立て始めたのを確認したあとのことだった。
ともだちにシェアしよう!

