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 みんなでテニスに行った翌日、知り合いの伝手を借りて、さっそく件のセレクトショップの店長にバイト面接の予定を取り付けてもらった。履歴書不要、私服可とのことだが、この場合、スーツ不可と解釈したほうがよいだろう。アパレル業界では、私服のセンスや着こなしが物を言う。そこを重点的にチェックされるに違いない。 「なあ結月、これどう思う? どっちのが似合ってる?」  三日後の面接に向けて、晃大はクローゼットからありとあらゆる服を引っ張り出していた。  精錬された美しさとアンニュイな雰囲気を兼ね備えるオフホワイトのオープンカラーシャツと、水彩画風の黒と水色の花が描かれた某ブランドの攻めた柄シャツ。双方を交互に胸の前に当てながら、バイト帰りの結月へと意見を求める。 「こっちは無難だけど、なんか守りに入ってる感じがしてインパクトに欠けるよな。けどこっちはこっちで、尖りすぎてる感が否めない。なあ結月、おまえはどう思う? あいだを取ってこれとかどうよ。これなら個性も演出できつつ、フォーマルさも兼ね備えてるような気が――」  クローゼットから新たに取り出したシャツを胸に当て、顔を上げたと同時、目に映った光景にはたと動きを止めた。 「ゆーづき」  手に持っていた三枚のシャツを置いて、ベッドに腰掛ける結月のそばへと歩み寄る。さっと目の前でしゃがんで、俯く結月を覗き込んだ。 「なーに足ばっか見てんだよ。さては……小指が一本増えたとかっ?」  ばっと視線を下ろし、結月の足を見た。薄ピンクをした可愛い指が十本。小指はもちろん、左右一本ずつだ。 「……バイト、ほんとに辞めるのか」  ぽつりと降ってきた声に、ふっと顔を上げた。 「面接受かったらな。落ちたら、まあ……ほかにいいバイト見つかるまでは続けるけど」  さすがに、無収入は辛い。けれどできるだけ早く、代わりのバイトを見つけるつもりだ。 「今まで通りじゃ、だめなのか。なんでいきなり……」  訥々と尋ねられ、立ち上がって結月の隣へと腰を下ろした。 「結月」  呼びかけるが、結月は振り向かない。十本揃った足の指ばかり見つめている。 「結月、こっち向いて」  頬に手を添え、こちらから首を伸ばした。唇を重ねようとした直後、ん、と顔を背けられる。 「……やっぱ、なんか怒ってんだろ」 「怒ってない」 「嘘だ」 「嘘じゃない」 「じゃあキスしよ」 「っ、それは……っ」  初めて、結月のほうからこっちを向いてくれた。しかし間もなく、視線はまた足元へと戻ってしまう。 「……したくない」 「なんで」  問い返すと、結月は黙り込んでしまった。  こちらが察して対応するという手はあるし、それも必要なスキルではあるのだろうけれど……そればかりでは、きっとどこかで限界が来る。今後のことを思うなら、ここは一度、結月本人の口から思っていることを伝えてもらいたかった。それができないということは、自分はまだ、結月にとって、そこまで信頼に足る相手ではないということだ。  ――やっぱ、俺から踏み込んだほうがいいのか……?  あまりに長い沈黙に、とうとうこちらから切り出そうとした、そのときだった。  ピンポンと、部屋のインターホンが鳴り、二人してそちらを振り返った。

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