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 澄雨と別れ、部屋に戻ると、しんとした空気に包まれた。 「マカロン……よかったのか」 「また買ってくるよ」 「だったら俺が買ってくる。いつ必要なやつだったんだ」  外装からして、誰かに渡す予定のものだったと勘違いしているらしい。 「いいよ。もともと、おまえと食べようと思って買ってきたやつだったし。その代わり、次出かけるまではおあずけな」  期間限定のものだったので、本当は明日にでも買いに出るつもりだけれど。少しだけ、意地悪を言ってみた。  え、と瞬きをした結月が、それから、しょんぼりと視線を落とす。今日はずっと、足の指とお友達だ。 「結月」  そばに寄り、優しく体を抱きしめた。 「明日、二人でデート行こっか」  耳元で囁くと、結月の頬が赤くなった。 「っ、デ――」 「そんで、帰りにまたマカロン買って帰ろう?」  付け足した途端、一変して結月が目つきを鋭くした。 「子ども扱い、するな!」  どん、と体を突き飛ばされる。晃大はゆるりと瞬きをして、態度を一変した。 「……じゃあ、大人しかしちゃいけないこと、する?」 「っ、なんだよ、それ……っ」 「昨日の夜の続き。したくない?」  いざ本気で確認を取ると、結月はうっと口ごもった。目に見えて動揺している。 「……おまえが」 「うん」 「おまえが、止めたんだろ! 酔ってるとかなんとか言って!」 「だって、現に酔ってたじゃん」 「酔ってあんなことするほど馬鹿じゃない!」  やはりそこかと思った。 「それはごめん。けどやっぱり、あの流れだとどうしても酒の勢いみたいになるかと思って。……初めては、特に大事にしたいから」 「っ――」  息を詰まらせた結月へと、この際だからと晃大は続けた。 「ほかは? まだ、なんか不満に思ってることある? 不安に思ってることでも、直してほしいことでも、なんでも。そういうのがあるうちは、俺はまだ、おまえのこと抱けない。おまえに、後悔してほしくないから」  結月と始めてキスをしたとき――これが自分のファーストキスならよかったのにと本気で思った。そう思ってしまうくらいの感動を、結月は晃大に与えてくれた。  そんな結月の初めては、それこそ、最高のかたちで迎えてほしい。……いやしかし、そんなのは強がりだとわかっている。本当は今すぐにでも結月を抱きたい。この腕の中でとろとろに溶かして、一つに重なりたい。けれどもし、そんな衝動に身を任せて結月を抱いた結果、やっぱりこんなことするんじゃなかったと涙の一滴でも流された日には……。考えるだけで、肝が冷える。  認めよう。自分は今、これまでになく臆病になっている。そうならざるを得ないほど、結月が好きでたまらないのだ。結月は気づいていないだろうけれど、そうして目を伏せられるたび、内心むちゃくちゃ焦ってるってことをわかってほしい。いや、やっぱりわからないでほしい。情けないところは見せたくない。好きな人には格好よく見られたい。そんなに足の指が気になるなら、今ここで跪き、その指と指の間まで隈なく舐め回してやってもいい。そうして、ほかのことなんかなにも考えられなくなるくらい、自分に夢中になってほしい。自分が今、結月に対しそうなっているのと同じように――。 「……そういうところだ」 「え?」  沈黙を破った一言に、晃大は瞬いた。 「そういうっ、俺のこと第一みたいな態度……っ。痩せ我慢してるみたいで、腹立つ!」 「痩せ我慢って……」  不覚にも、的を射ていると感じてしまった。けれどすぐあとに、それは仕方のないことだろうとも思った。好きな相手を思い、満を持してと考えるのはそんなにいけないことだろうか。

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