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第5話 艷夜の誘い

 マスターが買い出しから戻り、直ぐにバーを出た俺たち。寄り添うかのように肩を抱く彼が(いざな)うまま、辿り着いたのは、ピンク色をした大きな建物だった。  噂に聞いた事ある――貴族が目的で使うと云う宿泊場。  まさか、自分が足を踏み入れる日が来るなんて思わないよなぁ!?  チラッとジルの方に視線を向けると「どうした?」なんて相も変わらず甘い視線を送っている。  こうして広いエントランスを抜け、豪華な部屋へと導かれ……部屋に着くやいなや、2つあるバスルームのひとつへと逃げ込むように入ったのだった。 「どうして俺は、ココにいるんだ」  白い大理石の浴槽を前に、漸く正気に戻った俺。   たしかに、無駄に純血を貫いて早22年。機会に恵まれ無かっただけで、一応これでも健康男子。興味のない事柄ではない。  相手もまた、男だけれど。 「こ、これは仕事……追加料金30万ジニ貰ったしッ!!」  乱暴に蛇口を捻り、ザァッと勢いよく飛び出るお湯を頭から被る。   『俺と一緒に堕ちよう……なぁ、天使』  どれだけ「これは仕事で」と自分に言い聞かせようが、あの色っぽい吐息を思い出すと、バカみたいに身体が高揚するのが分かる。  ってか、なんで反応したんだよ……俺の、アレ。  チラッと視線を下に落とすと、堂々とした出で立ちのソレが健在していた。  ジワッとした疼きすらある。これは確かに、どうにかせねばならぬ事態ではある。  でも、いまからこれをジルが……?  俺の頭を、頬を、何度も撫でたあの大きくてゴツっとした手を思い出すと、当たり前のようにソレも反応を示す。  慌てて俺は、水飛沫の掛かる髪をブンブンと大きく左右に振った。 「男同士……抜き合いとかで終わるだろ? な、なら自分でする延長線……べ、別に変な事じゃない」  そんなわけが無い。  だがそう自分に言い聞かせるしか、俺に出来ることはない。経験がないが故、それ以上の事を想像することさえ出来ないでいる。 「あんな、色気の権化みたいな存在が悪いだろ……」  思えば最初から、彼はとんでもない色香を纏っていた。男だとか、女だとか、どうでも良くなるほどの。  だからこの身体の反応は、致し方ないことであって――   大きく息を吐き「よし」と小さく呟くと、キュッとシャワーの蛇口を捻る。まだポトリポトリと零れる雫を横目に、浴室を後にした。 ◇◇◇  おそるおそるバスルームを出て、広い室内にひょこっと顔を覗かせる。  豪華なメインの照明(シャンデリア)は影を隠し、隅に置かれた幾つかの間接照明と、テーブルの上に灯った蝋燭、更には外から射し込む眩いばかりの月明かりが主張する室内。――そんな幻想的な部屋の中、真ん中にある上等なソファーにジルは腰掛けていた。  ワイングラスを傾ける彼と目が合えば、それだけで身体中の体温が急上昇してしまう。  どこの国の王子様だよ……!!  紺色のバスローブに身を包む彼は、その姿だけで殺傷能力が1億を超えている。  少し湿った黒髪を掻き上げるその仕草で、一体何人が崩れ落ちるのだろうか。 「おいで、アイラ。お前も飲むか?」  扉の影に隠れた俺を見つけたジルが「おいでおいで」と手招きをする。  コクンと頷き、おずおずと彼の座るソファーへと近寄った。  隣に腰掛ければ、忽ち全身が深い彼の香りに包まれる。  ど、どうしよう……心臓、もうおかしくなりそうなくらい爆発してる……  熱い頬を両手で押え、アタフタとしている俺の前に、ワイングラスが差し出された。 「お、美味しそう」 「飲めよ……お前の好きな味だと思うぞ」 「……ありがとう」  どうにか正気を保ったまま、そのワイングラスを受け取る。  震える己を押し込むよう、グイッと赤紫色の葡萄酒を喉に流し込むと、瞬く間に口内が凝縮された果実の味で満たされた。 「はぁっ」と息を吐き、余韻に浸っていると、同じくワイングラスを持った彼が「乾杯」と囁き、上品にそれを口へと運ぶ。  互いがワインを飲み、何かを言うとこもなく、静かにその美味しさに舌鼓を打っていた。  「……ウイスキーばかり飲んでるイメージだったけど、ワインも飲むんだな」  月明かりを背にグラスを傾ける彼をじっと見つめる。  ジルの所作のひとつひとつ――ステムを持つ手がゴツっと骨ばっていて厭に男性的であるとか、ワインを飲み込む時に動く喉仏とか――それらがやけに美しく見えて、思わず目を奪われてしまったのだ。  同じ男なのに、全然違う―― 「偶にな。……それにには、ワインがお誂え向きだろ?」  少しだけ濡れた薄い唇が、ニヤッと弧を描く。  たったそれだけの事で、俺の心音はバクバクッと高鳴り続ける。  ダメだ、全ッ然酒に集中出来ない……もうジルが顔を傾けるだけでもドキドキする……  テーブルの上に置かれた蝋燭が、一際強く燃え上がった気がした。 「……っ、お、おかわり……」  場の空気に酔ってしまいそうで、慌ててテーブルに置いた中身の無いグラスを手に取り差し出す。すると彼の大きな手がそれを取り上げた。 「おかわりは……こっち」  フッと目を細め色香を纏った笑みの彼が、段々と視界の中で大きくなる。  思わずキュッと目を閉じると次の瞬間……フワッと香る芳醇なワインの吐息と共に、唇に何か柔らかい物が触れた。 「……っ、ふ……それワインじゃ、な、い……」  それが彼の唇だと気が付いたのは、少しだけ開いていた口内に熱い舌が潜り込んで来た時だった。 「……ワインの方が良いか?」  ちろちろと彼の舌が俺の舌先を舐め、そのまま歯列、上顎と這いずる。 「あ、ふっ……んんッ……」  その初めての感触に、ゾクゾクっとした得体の知れない感覚が全身を走り抜ける。  ザラザラとした舌を擦り合わせ、キュッと彼の舌が器用に俺の舌を巻き取ると「はふっ」と息が上がり、密着した身体に触れる紺色のバスローブを、キュッと握り締めた。 「なぁ、アイラ……どっちが欲しい?」  漸く唇が離され、「はぁっ、はっ」と肩で息をする俺に、銀糸で繋がったままの薄い唇がそう問う。 「どっち、って……」  チラッと目線を彼へと向けると、そこにあるのは欲の滲んだ雄の顔。  金色の瞳は影を帯び、射抜くような眼差しで俺をじっと見つめる。形の良い唇が、ペロッと舌舐りする所作に……ドクンッと鼓動が高鳴る。 「まだ酒が欲しいか? ……それとも」    名前を呼ばれるだけで、身体全部がおかしいくらいに熱くなる。 「……それは……えっと……」  幾ら目を泳がせても、ズキズキと痛いほどに反応を示す下腹部を鎮める方法が分からない。  赤い顔でオロオロする俺の頬を、スっと暖かいものが撫でた。 「嫌なら無理強いはしない。生憎その趣味は持ち合わせていないからな。安心しろ、金を返せとは言わない。存分に酒を愉しんで眠るといい。朝には送ってやる」  その言葉に、今まで下を向いていた顔を思い切り上げる。  窓から差し込む月明かりに照らされた彼の表情は、別に俺を責める様子もなく、ただただ柔和に微笑むものだった。  せめて苛ついておいてくれよ……そんな顔されると、俺……おれ……  気付いた時にはもう腕を伸ばし、紺色のバスローブをぎゅっと掴んでいた。  少しだけ身を前に乗り出し――形の良い唇に「ちゅ」っと触れるだけの口付けを贈る。  「…………こ、っち……が、ほしい……」   きっと今俺は、身に付けている桃色バスローブよりも真っ赤な顔をしているのだろう。  そんな俺の後頭部を、彼の大きな手が掴んだ。 「なら遠慮なく……味わえ」  少しだけ震える唇は、嬉しそうに笑う唇に覆われた。 ◇◇◇  互いの鳴らす水音が、鼓膜を刺激し続けている。  もう、どのくらいの間……唇を重ね合ったのだろうか。  いつの間にか燭台の蝋燭は溶け、部屋は満月の光だけが満ちていた。   「ね、……も、くるし……」 「もう少し……お前の気が安らぐまで」  漸く酸素を取り込めた口内は、再び生暖かいもので覆われる。  慣らされた唇は自然と開き、そこへ当然のように彼の舌が潜り込む。  ザラザラとした舌同士が重なり合い、ゆるゆると動くと、つい背中に回した手に力が入る。 「ぁ、は、ふ……んッ……もっ、と……」  きもちいい……つぎは、キュッってベロ……すわれたい……  紺色のバスローブを指先で掴みながら、俺の口内に唾液を送る舌先を甘噛みすると、柔らかいシーツの海に俺の身体がグッと沈み込んだ。 「初めてだという割に、随分と可愛く啼くんだな」  少しだけ離された舌は、銀糸で繋がっている。  「あれ、もうおわりかな」なんて、ぼやけた頭で考えていると、再び滑り込んだ舌が、貪るように口内を舐め回し、いっそう強く俺の舌の根元へと絡んだ。  同時に――のしかかった身体の心地よい重みに反応を示す下腹部へと、彼の大きな手が伸びた。 「ま、……まって、まって……その……」  乱れたバスローブの中にスルッと忍び込む手を、俺はジタバタと足を揺すり、どうにか制する。  ほ、ホントに俺でいいのか? だって男同士……同じモノが付いてるけど……嫌とかないの、か……?  くちゅっと音を立て、口元の熱源が離れる。  途端にヒヤッとした空気を感じながら、眉を下げ、俺に覆い被さる美丈夫をじっと見つめた。 「どうした? 嫌になったか?」  下腹部にあったはずの大きな手は、今は俺の頭をあやす様に撫でている。  少し驚いた――けれど、優しく目を細めながら首を傾げるジルと視線が交わると、俺は赤い顔を「ちがうちがう」と横に振った。 「そうじゃなくて……はっ、……ジルは、慣れてるかもしれないけど……俺は、こういうの、その……わかんないし……そ、それにっスタイル抜群とかの女の人でもないし……大丈夫かな、とか」  我ながら、情けない姿ではある。  でも、そういう事になると、ほわっとした頭の中で不安が生まれてしまう。  貧祖で薄っぺらい男のカラダ、だし。  ジルは、その……そんなので反応するのか、とか。いや、誘ったのはジルだけど……おもってたんと違うなとか  ならないか、とか。  なんか俺のはもう、びっくりするくらい元気だけど。  俺が震える声でそう言うと、目の前の金色の目が大きく開かれる。けれどすぐさま――それは優しい光を宿したものへと変わった。 「他の奴がどうかなんて知らない、興味もない。……抱いてみたいと思った人間は、お前が初めてだよ、アイラ」  実直な瞳が、俺を射抜く。  そ、そんな顔で、そんな台詞言われて……俺の心臓、持つはずない……  もう、破裂しそうなくらいバクバクと音を掻き鳴らす心臓を、バスローブの上からギュッと掴む。  するとその手に大きな手が触れ――重なり合った手は、彼の下腹部へと導かれた。  ――ッ!! あ、つ……  分厚いタオル地の上からでも分かるその熱に、俺の身体は面白いくらいに跳ねる。  おそるおそる、それを撫でツンと指で弾くと、ビキッとそれは質量を増した。 「……あ、おっき……」 「俺の言葉に、嘘偽りがないのが分かったか?」  俺は顔を伏せたまま、コクリと小さく動かす。  だって、どんな表情をしたらいいのかわからない。  ジルのに触れた瞬間――もう痛いくらいに勃ちあがった己から、ツウッと液が垂れ、それがジワッとシーツに広がったんだから。 「んァッ……ふっ……」  それを、ジルが見逃すはずもなく――重なった手は解かれ、彼の大きな手がソレに触れた。   「あっ……んぁ、ゃ……そんなにしたら……」   彼が覆い被さる下で俺は、生まれたままの姿になっていた。  大きく開いた股の間で、先程からジルの手がぐちゅぐちゅ音を立てながら上下に動いている。  なにこれ、自分でするのと全然ちがう……きもち、い……  溢れに溢れた先走りの液が良い潤滑剤となり、静かな部屋にぐちゅぐちゅと音が響くのも相まって、俺のソレはもう爆発寸前。 「ドロドロになって……可愛いな、アイラ。気持ちいいか?」  コクコクとどうにか首を縦に振っていると、その先端を、それまで裏筋を這っていた指がぐちゅりと潰すように撫でる。 「――ッッ!! それッだめぇ……だめっ、イっちゃ――……!!」  下腹部に集約された熱が膨れ上がる。ゾクゾクした快楽が背中から頭へ抜けると、俺は身体を大きく痙攣させ――彼の手の中に欲をぶち撒けた。 「はっ……いっぱい出したな。いい子だ」 「――ッ、は、……はっ……ッ……はずかし……」  初めて人に触られて――尚且つ達してしまった。  ハァハァと肩で大きく息をしながら、反射で閉じた瞼を開くと……そこには、人差し指にペロリと舌を這わす美丈夫の姿。  そこに白濁したがまとわりついているのを……俺は見逃さなかった。  ちょっ……まって、それ俺の――ッッ!?  途端に顔が勢いよく沸騰する。そして、それに気が付いたジルが、今度は態とらしく舌舐めずりをした。 「なぁ、天使がもっと乱れる姿を見たい」 「えっ……えっ、ちょっ、と……?」  アワアワとしたままの俺の視界から影が消えた――かと思えば、胸の辺りを、ヌルッとした感触が襲った。 「小さくて綺麗な色だ」  何度かヌルヌルと暖かいものが這いずる。それが彼の舌だと気が付いた時には……俺の口から、信じられない声が漏れ出していた。 「んぁッ……ぁっ、あッ……」  な、んだ、これ……こんな女みたいな声……しらない…… 「なんだ、随分感度がいいな。……自分で触った事、あるのか?」  俺は口元を抑えながら、首を横に振った。  なんだよ、これ……訳わかんないくらいきもちいい……  下腹部の快楽は、当然自分で経験済み。それでも比べ物にならないくらい気持ちよかった。けれど――胸の突起は、未知の領域。 「やぁッ……も、ジル……だめッ……んぁぁっ!!」  ちゅくっと乳首を吸われると、ビクンビクンッと身体が弓なりに跳ねる。  それと共に、口から嬌声で溢れ返るのが止まらない。 「もっとしてくれって言ってるようにしか見えないが?」  「ふっ」とムスクのような笑い声から、彼が随分と気を良くしたのが分かる。  ぢゅっちゅくっと言う音を響かせながら、ジルはそのまま突起に吸い付き、空いたもう片方を指先でクリッと捏ね始めた。 「ぁあぁああッ……そんな、した、ら、だめ……」 「ツンッと尖って愛らしいな。ずっとしゃぶっていたい」  言葉通り、慈しむように彼は、指先と舌でゆるゆるとソレを撫でている。  も、おれ……おかしくなりそう……下もズクズクしてる……  いつの間にか息を吹き返た肉棒を、重なる彼の腹筋に押し付ける。  また、出したい……きもちいいの、ほしい……  すると彼は「あぁ」と低く呟き、胸元を弄っていた手を徐に離した。 「なぁ、アイラ……俺も、そろそろ限界だ」  ぽやっとした頭で「なにが……?」と顔を上げると――シュッと何かを解く音と共に、彼の綺麗な顔が間近に迫っていた。  その目は――今まで見たどんな金色より、濃い色をしていて。  ギラッと光る雄の眼差しに、ビクッと俺の心臓とアレが跳ね上がる。  ジルはバスローブの前をはだけさせ、ピクピクと痙攣する俺の欲棒に、酷く熱くて硬いものを合わせた。 「ちょっ……ぁッ……ふっ……」  唇が塞がれるのと同時に、ズリっと硬いものが擦れ合う。  こ、れ……2人の一緒に……擦られてる……?  こんなにも情熱的な形状のものは、彼のソレしか思いあたらない。 「手はこっちだろ?」  そう言って彼は痛いほどに白いシーツを掴む俺の手を丁寧に解き、自分の背中へと回した。 「ぁっ、んむっ……ぁっあっ」  「……は、……っ……」  ジルの官能的な吐息が、俺の口内に広がる。  俺はそれを、彼の唾液と一緒に喉の奥へと飲み込み――   自ら舌を絡ませながら、熱い息を返す。  俺のより全然大きくて、硬くて……ジルの裏筋がゴリっと擦れるのきもちいい。先っぽ……カリに当てるのやばい……  ゾクゾクと背筋に走る電流に身体を震わせながら、彼が纏うバスローブにギリっと爪を立てた。 「ッぁっ、はっ……ん……ご、め……」 「いい。そのまましっかり抱き着いていろ」  俺はコクコクと頷き、遠慮なく男らしい背中にギュッとしがみつく。  どうしよう……腰が、勝手に動いてしまう。  どちらとも分からない液が、互いのソレを伝い、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が増す。  それがまた鼓膜を刺激して―― 「ぁ、あ、あっ……きもち、い……ジル……」  更なる快楽を求めて、辿たどしく腰を振る。 「やらしく腰振って……可愛いな、お前の全部喰べてしまいたい」  すると、もう少しの隙間も無いくらいに唇が塞がれ、本当に喰べられてしまうのでは無いかというくらいに口内が舐められる。  下腹部を擦る手も、一層激しさを増し――目の前がチカチカとし始めた。 「もっ……イっく……!! ぁっ、んぁあぁああッッ!!」 「はっ、ん……俺も……」  ビクビクッと身体を大きく跳ねると同時に、ジルの低い唸り声が聞こえる。  も、……からだ、もたな…… 「今日はここまで。次はもう少し深く、交わろうな」  微睡む意識の中で、そんな言葉を聞きながら……俺は意識を手放した。    

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