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第2話 これは気分転換

 仕事は薬剤師。  職場はどこにでもあるような薬局。  近隣の病院の処方箋も扱っているから、メインの仕事はその処方箋の調剤。けれど、それだけじゃなくて、混んできた時とかはレジもやる。市販薬の説明や、案内なんかも。  病院の隣によくセットみたいに並んでる薬局でだいたいの人は薬を処方してもらうと思う。  混んでるところだとけっこう待ったりするから、通院慣れしている人は診察はかかりつけ医、処方箋を持ってきて、薬はうちの薬局で、なんてことをする人もいる。  ここでなら、調剤が終わるまで待ってなくていい。その間、店内で日用品を買ったりもできるから。品数は多くないけど、食料品なんかも扱ってるから、ちょっとした日々の買い物ならここで十分賄えるんだ。  昨日、腰痛の薬と貼るお薬をもらいに来たおばあちゃんもそのうちの一人。 「……ぁ」  これ、昨日の「謎な人」が買っていったヘアワックスだ。  へぇ、新商品なんだ。それで買ってたとか?  ほんと、謎な人だ。  自分も整髪料使うからわかるけど、そんな一週間単位でなんてなくならない。けど、あの「謎な人」は多分、一週間に一回は来てる気がする。しかもだいたい昼間。平日。  なんの仕事してるんだろう。  モデル?  芸能人?  そのくらいにかっこいいけれど。  でも、テレビとかで見たことない。  じゃあ――。 「あ、葉山くん。今日の送別会、参加だっけ?」 「あ、はい」 「じゃあ、あとは私がやっておくから、早く行くといいよ」  局長がにっこりと笑って、今日の分の調剤伝票の束を手に取った。 「すみません。それじゃあ、お先に失礼します」 「うん。楽しんで」 「ありがとうございます」  局長は、行かない、のかな。中学生と高校生の子どもがいるお父さんでもあるから、忙しいのかもしれない。  店長は基本、薬局内の商品管理と売上管理。  局長は、その薬局ないにある調剤薬局を管理している人。  僕の上司はこっち。局長になる。  職場仲間は二十人いかない。今日の送別会でまた一人いなくなってしまった。と言ってもすでに三月に辞めちゃった子なんだけど。  大学が決まって、その大学近くに引っ越したんだ。落ち着いたら送別会をやろうって話していた。  小さなコミュニティ。  でも、このくらいの規模がちょうどいい。  “元気? そろそろ、うちに顔、出してみない?“ 「……」  店を出て、送別会の幹事をしている人に、今から行きますって連絡をしようとしたら、そんなメッセージが来てた。  姉から、だった。  “お父さんもどうしてるんだ? って心配してたよ?“  心配って、言われても、さ。 「……」  別に僕は普通だよ。何をどう心配しているんだろう?  お父さんがなって欲しいものになれなかったから?  それとも、お父さんには僕のこと、病人にでも見えるのかな?  男が好きなことが病気のように思えているのかもしれない。  ただ、一度、恋愛した相手が男だったことがそんなに心配なの、かな。  “お疲れ様です。今から行きます“  姉からのメッセージはそっと閉じて、別のメッセージを別の人に送信した。 「……」  ただ一度、恋愛した……に入れていいのだろうか。  あれを。  どうなのかな。  カウントしていいのかな。  だってさ。  ――え? 本気なわけないだろ? 男相手に。  だって、そう言われてしまうようなのは、恋愛にカウントしちゃいけないと思うんだ。 「……はぁ」  今夜こそ、早めに帰宅して早めに寝ようと思ってた。  明日も早番なんだから。  けれど、たった今、姉から来たメッセージのおかげで気分転換したくなった。  フラフラと、どこかに行きたくなったてしまった。  送別会がもう少し遅くまで開かれていたら、そのまま帰ったかもしれない。引越しして遠方になったこともあって、早めに終わってしまった。残念。これじゃ、また僕は懲りもせずに寄り道してしまう。 「あ、あ、あっ……あぁっ」 「っ」  騎乗位は、好き。 「アッ、そこぉっ」  やらしい気分が増すから。 「ン、気持ち、いいっ……あ、あっ、ン」  送別会終わりに、ふらりとバーに入って一人で飲んでたら、声をかけてもらえた。今夜の相手はサラリーマンって言ってた。僕にはサラリーマンがどういう仕事をしているのかよくわからないけれど、何かの営業をしているんだって。  ハッテンバってわけじゃないけれど、相手を見つけるには、同じ趣向の人が集まる場所で探すのが手っ取り早い。  顔もかっこいい人だった。あと優しそうだった。 「アッ、それっ、ダメっ」  だからもちろん、セックスも。 「あぁっン」  優しい。  自分で良いところにそれを擦り付けて相手の上で背中を仰け反らせると、下で締め付けに顔を歪めながら、僕の乳首をキュって抓ってくれる。 「あ、これ、スキ……っ」  気持ち良くしてくれたお礼に、中を締め付けてあげた。 「アッ、激しっ」  そして、今夜の一番気持ち良い瞬間だけをただ堪能したくて。 「あっもっとっ」  自分から腰を振りたくってると、支えるようにお尻をサラリーマンの彼が鷲掴みにしてくれる。 「あっンっ」  恋愛は、しないんだ。 「あ、好きっ、これっ」 「すごいね」 「あ、あ、あ、止まんないっ」 「おとなしそうに見えたけど」 「あ、あンっ」 「こんなにやらしいなんて」  恋愛は、しないよ。 「最高だ」  だって、男同士だぞってさ。  あいつにそう言われたし。 「あー、イクっ、イクっ」  だから、しない。 「あ、あ、あああっ」  恋愛なんて、僕はしないんだ。

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