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第21話 好意

 誰ともちゃんと恋愛しないからやめておいた方がいいよって言われてしまった。  わかってるし。  僕と柴くんで恋愛なんてことあるわけないって、わかってる。  柴くんの好きなのは女の子で。  僕は男で。  ただ、彼は僕がゲイでも気にしないでいてくれた良い人だっただけ。否定しないでいてくれた、それがただ嬉しかっただけ。だからこれは恋愛とかの気持ちじゃなくて、否定しないでいてくれたことで好感が持てたってだけのこと。  本当にただそれだけのことだよ。 「薬剤師さん? なんだ、マジで最近出てきたモデルさんだと思った」 「そんなわけ、ないよ」  モデルっていうのは容姿端麗な人がなるんでしょ。僕はただの、そこらへんにいくらでもいそうな一般人だ。 「やー、そんなことないよ。充分綺麗系だと思うけど」 「そ、それはっ、柴くんが髪、セットしてくれたから、だよっ」 「え?」 「そう、セットしてもらった」  彼は、セイ、くん、というスタイリストさんで、柴くんともよく一緒に仕事をするらしい。  本名は所澤誠也(ところざわせいや)くん。  柴くんがメイクとヘアセットをするスタイリスト。セイくんは衣装を担当しているスタイリスト。  そして――。 「あいつが」  僕と同じゲイの人だ。 「そう、だけど」 「……」 「何か」 「! あ、あー、いやっ、なんでもない。へー、だからか、髪、いい感じって思った」  なんだろう。今、すごく驚いたような顔をして。 「あ、うん。僕も、ずっとくせっ毛好きじゃなかったんだけど」 「へー、この髪、天然?」 「うん。柴くんがクセを活かした方がいいよって教えてくれて」 「あいつ、センスはダントツだからなぁ。女クセ悪いけど」 「さっきダンサーの」 「そうそうあいつ優しいからさぁ」 「……うん」  ダンサーの女の子に言い寄られてるって言ってたっけ。 「優しいのって一番残酷だって思うけどね」 「え?」 「俺は違うって話」  セイくんはニコッと笑うと黒髪をかき上げた。 「俺は、好きな子にしか優しくしないからさ」  ふと視線をスタジオの中心部に向けると柴くんがスポットライトのすぐ近くでじっと踊っているアーティストを見つめてる。  柴くんが真剣な眼差しでメイク直しをしている相手、は。  あの子だ。ほら、さっきの、赤髪の彼女だ。  すごい。  かっこいい。  射抜くようにカメラを睨みつけながら、リズムを全身で刻むように踊っている。長い赤髪がターンするごとに炎を揺らすようにふわりと舞って。見惚れてしまうほどしなやかな強さが溢れていた。僕同様、柴くんに魔法をかけてもらったうちの一人だ。彼女もメイクをしてもらう直前までは赤髪だけがやたらと目立ってしまう普通の子だった。僕も彼に髪を切ってもらうまではただの薬剤師で。もちろんそれは今も変わらないのだけれど。 「良い人だと思うよ」 「あいつ?」 「そう」 「あいつがぁ?」 「うん。そういう意味で好きではあるけど」 「……」 「ただそれだけ、です」  そして、柴くんに魔法をかけ直してもらった彼女はステージの主人公だと思えるほどの存在感でまたリズムを身体全体で刻み始めた。  セイくん、話しやすかった。  やっぱり仕事柄、なのかな。軽快な雰囲気、笑顔が多くて、こっちの話をよく聞いてくれる。  スタイリストを仕事にしている人は髪やメイクでも衣装でも、話しやすい人が多いのかもしれない。  セイくんはバイじゃなくて、ゲイ。恋愛対象は完全同性。この業界には多いんだと、柴くんと同じようなことを言っていた。  撮影がほぼ終盤に来て、柴くんがとりあえず仕事を終えるまでずっと話してた。  僕の仕事のこと。  僕の日常について。  どうして柴くんと知り合ったのか、などなど。  ――またね。  去り際にそう言われてしまった。  話してて心地よかった。 「葉山さん」 「……お疲れ様」  ――壱都って、基本的にいつでも誰にでも優しくてさぁ。  そうだね。本当に優しい人だなって思う。 「楽しかった?」 「うん。なんか僕はただ見学させてもらったけど、今日だけで何人芸能人見たんだろう。柴くんにしてみたら、これが日常で、普段の職場なんだね」 「あはは」  綺麗な人。かっこいい人。可愛い人。性別問わず、容姿端麗な人ばかり。それだけじゃなく、感動してしまうほど歌がうまかったり、ダンスがすごかったり。才能の塊のような人しかいない場所。  それはもちろん裏方と言われる柴くんやセイくんも同じ。  センスの塊って感じがした。 「僕にはなんていうか夢の世界っていうか」  僕だけ「普通」だった。  申し訳ないほど普通。 「あはは。そんなことはないよ。芸能人って言っても、普通に葉山さんだって芸能人になりたければなれるんじゃん。それよりも芸能人を見かけた時の葉山さんテンション高くて」 「だっ、だって、高くなるでしょ。芸能人うじょうじゃいるんだもん」 「かわいかった」 「!」  僕のこれは褒めてくれたことが嬉しかったからってだけ。 「帰りどっか寄って食べてこうか。葉山さん、何食べたい?」  違う、よ。 「葉山さんの好きなものでいいよー」  わかってる。 「葉山さん?」  この、柴くんに持っている好意は。 「疲れた?」 「! ううんっ」 「晩飯どうしようか。近くにめっちゃ美味いスペイン料理の店あるんだ」  褒めてもらえて、おだてられて出来上がった、ただの好意だよ。 「うん。そこに行きたい、です」  そう胸の中でしっかりと唱えておいた。

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