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第27話 恋愛映画は
すごい高級焼肉店だった。
まさに芸能人や著名な人が来そうなお店。焼き肉屋さんなのに高級感が溢れてた。
「えー、サキちゃん白衣着てるんだ。すご。見てみたい」
「フツー、です」
お肉もすごく美味しくて、いくらでも食べられそう。芸能人はこういうところでいつも食べてるんだぁなんて思ってみたりして。
「サキちゃん、白衣似合いそー」
白衣に似合うも何もないと思うのだけど。
セイくんがにっこりと笑って頬杖を突きながら俺のお皿に牛タンをいくつも乗せてくれた。
よく喋るセイくんと反比例するように、今日の柴くんはいつもよりも口数が少なくて。今朝、焼肉食べに行こうって話してた時はもっと饒舌だったんだけど。
どうしたのだろう。
今日の仕事でなんかあった、とか?
気になる。
僕が柴くんに隠してる気持ちがあるせいか、彼の態度の変化がとても気になってしまうんだ。何か勘付かれてしまったのだろうかって。
「今後、その薬局行こうかなぁ」
「すごいフツーの薬局です。しかも遠いし。わざわざ来なくても近くにたくさんあるかと」
「違くて。買い物しに、じゃなくて、サキちゃん見に」
「僕見に来ても面白くないですって」
「いやいや」
あれ、かな。男が男を口説いてる感じが苦手、とか? 女の子大好きな柴くんにはこの雰囲気は違和感がすごいのかもしれない。
「そ、それより、セイくん、お肉焦げちゃうよ」
「あ、ありがとー」
だから慌てて、セイくんの遊び半分でやっているんだろうナンパノリを切り替えようとお肉の焼き係に集中してみる。
「どういたしまして。あ、こっちもそろそろ大丈夫かも」
なんかちょっとチクってした。
柴くんにそんなことを思われてるんだろうって考えたら、胸のとこがチクって痛くなった。けれどこんなものじゃないんだ。フラれたらもっとずっと痛い。この程度でチクチクしてたらもたないよ? って、ちょっと苦笑いが溢れた。
「焼肉、美味しかった?」
「うん。すごい高そうだったけど」
「そうでもないよ。気に入ってくれたんならよかった」
駅のところでセイくんとは別れた。セイくんはさすがというか、都心部に住んでるらしく方向が真逆だった。地下鉄使うんだって言ってた。うちはどこ? って聞かれて、柴くんが答えて。めちゃくちゃ遠いじゃんってすごい驚かれて。だから薬局遠いでしょう? わざわざ来るなんて絶対にオススメしないって言ったら、笑ってた。
「今日の店も美味しいんだけど、もう一軒、すっごい美味いとこがあってさ」
「そうなんだ」
「もう一軒のとこは、見た目めちゃくちゃ入りにくそうなとこでさ」
「へー」
少し、機嫌治ったかな。さっきよりは口数増えたけど。
「築何年? って感じで」
駅の構内はまだ人が多くて混雑している。電車がまだ来ないって不服そうな顔をしてる人や、退屈そうな顔をしてる人。みんなスマホの画面だけをじっと覗き込んでる。まるで、スマホに操られるみたいに、そこだけをじっと。
「葉山さんがあんま店の外観とか気にしないなら、今度連れてく」
「全然気にしないよ」
「そ? じゃあ、次はそこね」
「焼肉巡り?」
「うん。そう」
僕と柴くんはスマホを見ずに顔を上げて、おしゃべりしてる。
今、言ったらどうなるのだろう。
「焼肉好きなんだね」
今、好きと言ったらどうなるのだろう。
「かなぁ」
「かなぁ、なの?」
好き、って。
「じゃあ、葉山さんの好きな食べ物は?」
「僕? 急にどうして」
「いや、知らないなぁって思って」
好き、とか、もうしないと思ってた。もうならないって思ってた。
「んー……パスタ、かな?」
「範囲広」
「だってパスタならなんでも好きだから」
「じゃあ、今度イタリアンもいいね」
いいねって、一緒に食べに行くってことですか? 僕と柴くんで?
「嫌いな食べ物は?」
それはデートですか?
「……えー、なんだろ。ないかもしれない」
「すご。えらい」
「好きな色は?」
「青かな、柴くんは?」
「?」
「好きな食べ物、は、焼肉か」
「あはは、そうそう」
「じゃあ嫌いな食べ物は?」
「かんぴょう巻」
「へぇ」
「あと桜でんぶ」
「甘いの苦手?」
「ご飯に合わなくない? だからおはぎも」
柴くんとプロフィールの質問交換をしながら。
「葉山さんの好きな動物は?」
僕はずっと違うことを内心、君に質問してる。
「んー、カンガルー? かな。あんま考えたことないかも」
「なんでカンガルー?」
今日、なんだか不機嫌だったのはなぜですか?
やっぱりゲイ同士のそういうの苦手ですか?
「あの昼寝してる感じ? が、人っぽくて。柴くんは?」
「ネコ」
「王道だ」
今、好きな人はいますか?
太田リコさん、ですか?
「あ、電車来たね」
「うん」
そのまま電車に乗った。
「じゃあ好きな寿司ネタ」
「質問細かい」
「いいじゃん」
電車の中もみんなスマホをいじってばかりで、ずっと俯いてる。
「好きな映画のジャンルは?」
「アクション!」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、好きじゃない映画のジャンルは?」
「……」
君と僕だけがスマホをポケットにしまったままだ。
「恋愛映画、かな」
「へぇ」
「柴くんは恋愛映画好きそう」
「そう?」
僕は恋愛映画を見ると白けてしまうんだ。そんな素敵なワンシーンみたいに恋愛をしているつもりだったのに、全部嘘、なんてことがあったからかな。相手は全く逆の、短絡的で、欲望のみで、利己的なことしか考えてなかったのだから。
「実は恋愛映画はそんなに、なんだよね」
みんなスマホに夢中なのに、彼は一度もスマホを見ることなくずっと話してる。
好きなものをいくつも教えてくれる。俺の好きなものを教えてあげると、楽しそうに笑ってる。
「じゃあ、次、葉山さんの好きな――」
そして僕は内心、別の好きなものを、好きな人を思っていたけれど。
でも、好きな人は貴方です、そう言ってしまうには、僕は恋愛映画が苦手過ぎた。
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