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第33話 片想い、その二

 ちょっと、反省してます。  ダメ、でしょう?  人様の毛布をオカズにしてしまったら。  ――パシンッ!  …………痛い。またほっぺた思い切り叩きすぎた。でも、反省しないとなのでこのくらいでちょうどいい、です。そして、顔を洗いながらだから。 「……」  ほら、また洗面台がびしゃびしゃになった。 「……」  さすがに、人様の寝具で、いたしたらダメだよね。  もちろん賢者タイムに猛反省して、毛布はしっかり洗い直しました。乾燥機可のを買っておいてよかったです。  どうにか間に合って、乾いてくれて、夜、終電でやっと帰ってきた柴くんが、あれ? 毛布洗ってくれたの? って、逆にありがとうなんて言うから。  あはは、雨が続くらしいからー、なんて言い訳をしてみました。 「……」  すごく今日晴天になってしまったけれど。雨雲なんて一つもない青空日和になるって、太田リコさんが言ってたけれど。何かのサイトで見かけたら雨って出てたのでってことにしよう。そうしよう。  今となっては反省しているけれど、昨夜は、その、止められなかったんだ。  だって、あんなに――。 「おはよ、葉山さん」 「! おっ、おおっ、おはよう」  あんなに気持ちいいなんて思わなくて。 「? 葉山さん?」 「は、はいっ」 「どうかした? 顔、赤くない?」 「なっ、ないないっ! ないっ」  柴くんのことを考えながらするのが、あんなに気持ちいいなんて思わなかった。 「そ? ならいいけど。今日、俺、仕事開始が遅いんだ」 「へ、へー」 「だから、朝食、俺が作るよ」 「えっ、いいよ、あの」  そんなことをしてもらったら申し訳なくなるから。 「いいからいいから。昨日、毛布ふかふかで気持ち良かったから」 「!」  ふかふかっ。  気持ちいい。 「そのお礼」  すごい罪悪感、なんですが。 「ありがとね」 「いっ、いえっ!」 「?」  何も知らないのがまた本当に。 「何? 今日の葉山さん、なんか変なのー」 「な、なななんにも」  申し訳なくなるので。  本当に。  でも、すごかったんだ。 「出勤時間、いつも通りでしょ? 待ってて」  好きな人を想ってする、ひとりのは、本当にすごく気持ち良かったんだ。  ひとりでしたのにあんなに気持ちいいのなら、じゃあ、二人で――。  って、それは考えちゃダメだから。  ないない。それはない。絶対にないので、変なことを想像しないように。さすがにそれは怒られるから、柴くん、女の人しか恋愛対象じゃないんだから。しかも周囲は美人さんばかり。才能もあって、煌びやかで、選ばれた人しかいなくて、そんな彼女たちがこぞって捕まえたがるような彼なんだから。  どう転んでも同性のことを好きになることはないのだから。 「あ、葉山くん、葉山くん」 「は、はいっ」 「今日、薬屋さんのルート営業さんが来るから、対応お願いしてもいいかな。時間、そろそろなんだけどまだ来てなくて」 「あ、はい。大丈夫です。局長は、あ、そっか、今日授業公開日でしたっけ」 「そうなんだ。ごめん。見学終わったら、また戻ってくるから」  子煩悩、だよね。良いお父さん、なんだろうなぁって思う。  高校生と中学生の娘さんがいて。今日は、中学生の娘さんの学校が授業公開をしてるんだって言ってた。見に行きたいから途中外出をしたいと前もって言われていた。 「それじゃあ、すみません。行ってきます」  満面の笑みで嬉しそうに、もしかしたらスキップとかし始めそうなくらいに出掛けていく局長を見送った。  朝からなんだか局長が張り切ってるように見えたのは、このことがあったからなんだろう。  二時間くらいかな。  でもとくに今、調剤のほうには来店した人はいなくて、やることもとくにない。  ここでボーッとしててもね、そう思って、少し店内を巡回しようとしたところだった。  整髪料の新商品が出てたら、柴くんに伝えたいし、なんてことを考えながら、調剤薬局のエリアを出ようとした。たまにこうして店内を巡回していると、市販薬のところで何を選べばいいのか迷っている人を見かけたりもするから。  アドバイスとかしてあげたほうがいい場合もやっぱりあるから。  今は特に混んでないし。 「すみません。道が事故渋滞でどうにも進まなくて。約束させていただいた時間を過ぎてしまったのですが、本日、お時間の約束をさせていただきました、宇野(うの)と申しますが、局長さまは……」  背後から声をかけられた。控えめな、ゆっくり丁寧な口調だった。おどおどしているようにも思えるくらい、くどすぎる気がする敬語の使い方をしてる。 「……」  昔よりも声がハキハキしてない。少し疲れも滲んでいる。 「……ぇ」  けれど、よく知っている声だった。  もう顔は朧げになってきていたけれど、声はよく覚えてたんだ。あの日、なんて言われたのか忘れられなかったから。その言葉を発した、あの声はよく覚えていた。だから、振り返らなくても、その声で誰なのかはわかってしまう。 「なん、で」  それはこっちが訊きたい。 「真咲……?」  なんで?  どうして?  宇野がここに? 「……真咲」  そう、こっちの方が聞きたかった。

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