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第45話 ジェットコースターの高いところから、数センチ
あとでどんな悲しいことになろうと今、柴くんに好きと伝えたけど。
伝えたんだけど。
伝えちゃったんだけど。
「電車以外と混んでたねー」
でも。
「って、まぁ、混んでたのは最初だけで、ここの駅に着いた時には俺たちが乗ってた車両、俺と真咲さんだけだったけど」
でも、そう、終点駅の一つ手前で、同じ車両に乗ってた最後の人が降りてしまって僕らだけになった。そうして二人っきりになった途端に、急に不安っていうか、焦りっていうか。
「っぷ」
「!」
柴くんの小さな笑い声にすら飛び上がるほど身構えるっていうか。
「真咲さん、すごい顔してる」
「!」
すごい顔、してる? どんな顔なのか鏡で見たわけじゃないけれど、でも、おかしい顔をしていそうで、大急ぎで目を擦るように手でその目元だけでも隠して俯いた。
失笑しちゃうくらいに変な顔してたでしょう? そりゃそうだよ。だって、柴くんに好きと伝えてしまったら、さ。
二人っきりになった途端に慌て始めてしまう。
もうお互いに子どもじゃないのだから、お手手繋いで、はい終わりってわけ、ないでしょう?
する、でしょう?
キスとか。
「真咲さん」
「!」
セックス、とか。
「すごい顔って、変な顔って意味じゃないよ」
じゃあ、どういう顔? 絶対におかしな顔してたよ。ほぼ今、パニックっていうか、心境で言ったら、ジェットコースターで高いところから落っこちる手前、みたい。ちょっと待ってって言いたいけど、でも、そう言ったところで乗っちゃったんだから落ちてしまう。ビューンって、もう乗ってしまった以上、降りられないっていうか。
だからきっとそんな感じの変な顔してるでしょう?
ジェットコースターに乗って、すました顔なんてできるわけがないように。
だって、柴くん、男となんてしたことないもの。
できる?
できないかもしれないよ。
僕は中性的な顔付きってほどじゃない。けれど、そこまで男性っぽいわけでもない、とは思ってる。だから、顔だけなら、まだあり得たのかもしれない。
でも、それでも身体はやっぱり男だから。
声だって、男、だから。
「真咲さん?」
「っ」
「顔、見して」
「ちょっと、今は」
「なんで?」
「色々、あって」
「なるほどー」
手、解こうとしないでよ。なるほどーって呑気に言ってるけどこっちは今、ちょっと。
「まーさきさん」
「っ」
ジェットコースター。
「っ」
ほ、ほら、今、少しびっくりしてる。女の子ってこういう時どうしてるの? 僕は女性を恋愛対象に思えないから、こういうシチュエーションで女の子がどうしてるのかがわからない。もっと積極的? もっと、リードしてもらう? でも、どちらにしても僕みたいに格好悪いほどに狼狽えたりはしていないしょう?
だから、驚いた……でしょう?
「真咲さん」
「っ、あ、あのっ、無理とかしなくていいよ。やっぱ、その、ちょっとってなったら、全然それで。僕、も、それは仕方ないって思うし。生理的なものって、自分でどうにかできることじゃないから。だから気にしなくていいし、無理もしなくていい、から」
「キス、するね」
「あのっ……ン」
慌てて僕のことは気にしないでって言おうとした。変な顔を隠したかった手は掴まれてしまって、どうにもならないけれど、できるだけ変な顔を見られないように俯きながら、矢継ぎ早に言葉をたくさん、僕と柴くんの間に並べて。
この急に込み上げてきた焦りと戸惑いを誤魔化そうとした。
「ン」
その言葉ごと食べちゃうみたいに、唇が重なった。
「っ、ン」
舌、溶けちゃいそう。
「ふ……ンっ、ん」
鼻から抜ける変な声に狼狽える。
「ンンっ」
上顎の内側を撫でられて、ゾクゾクってしちゃう自分を抑えるように手をぎゅっと握ってる。
「あっ、ふ……」
唇が濡れてく。
「ン……ンンっ」
「やば……」
「!」
変、だった? あの、やっぱり女の子と違う? 唇くらいならそんなに違いはないんじゃないかと思ったけど。
「真咲さんってキスする時そんな顔すんの?」
深くて濃いキスで濡れた唇から、柔らかい溜め息を一つ溢して、柴くんが額をコツンって、僕の額にくっつけて、そんなことを呟いた。
知らない。
どんな顔してたかなんて、わからなくて、どう答えようかなって。
「さっきの人も見たことあるのかぁ」
「!」
「まさか、こういうテンションになると思わなかった」
「?」
「ね、真咲さん」
「?」
キスで、なんだか思考回路がふやけてしまった僕はすぐそこ、溜め息さえ唇に触れるとくすぐったい距離で、かっこいいなぁなんて思いながら見つめてた。
肌、綺麗だなぁなんて。
やっぱりメイクアップもするスタイリストさんからかな、なんて。
「不安?」
それは、まぁ。
「じゃあさ、こうしよ?」
「?」
「俺が、真咲さんにゆっくり触ってくから」
「……」
「真咲さんが大丈夫なところまで触らせて」
ふやけてる。
「多分、真咲さんが一番、怖がってること」
頭がぼーっとして。
「俺が萎えるかもって、思ってるでしょ?」
ほら。
「萎えないけど」
「……」
「真咲さんが触られて、困るところまで」
ジェットコースターの高いところから、数センチ、前に進んで。
「触っていい?」
ふわりと心臓が浮き上がったみたいに、柴くんの唇が首筋に触れた瞬間、重力がなくなっちゃった。
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