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第48話 ケーキみたいなセックスの後
お菓子のアソートボックスみたいなセックス。
もしも今まで僕がしてきたものを例えるなら、そんな感じ。
色んな味が楽しめた。
昨日のは。
―― あ、柴くんっ、柴くんっ。
昨日、柴くんとしたセックスは、まるで、最高級のホールケーキみたい。
豪華で見たことも触れたこともないような、食べてしまうのがもったいないくらいに素敵で、けれど一度食べたら、もう他のケーキではちょっと物足りなくて仕方なくなるような。そんなごちそうみたいなセックスだった。
信じられない。
こんなに満ち足りちゃうものなのかな。
たったの一度なのに、つま先から頭のてっぺんまで、幸福感に満たされるようなそんなセックスだった。
「……」
目を開けたら、ぐっすり眠ってる柴くんの寝顔がすぐそこだった。
今、何時くらいなんだろう。
六時前、かな。
遮光カーテンの隙間から、どうしても入り込みたいようで僅かでも部屋の中を照らそうとする明かりが窺えるから、もう日は昇り始めてる。
二人では狭い、と思う。
普通のシングルサイズのベッドだもの。
僕が壁側。落ちたら大変だから、だそうです。
柴くんだって落ちたら大変でしょう? でも、落ちない、かな。僕のことを抱えるようにして眠ってるから。
男二人が寝転がるにはやっぱり狭いよ。
しかも足、きっと柴くんピッタリくらいなんじゃないかな。背、高いから。
なのに気持ち良さそうに寝てる。
あと、狭い狭いって思っておいて申し訳ないけれど、僕も柴くんと一緒に眠りたかったから、遠慮できなかったんだ。その代わりに絶対に柴くんをベッドから落ちないように背中を壁にできるだけくっつけていた。落ちちゃうよって言ってあげられなかった。
こうしてみたかったから。
ずっと、ソファで眠る柴くんをチラッと横目で確かめながら。
起こさないように気をつけつつ、壁にぴったりと張り付いていた背中をはがして、柴くんの懐に潜り込んでみた。夜一緒に眠ろうとしてた時はできなかったんだ。だって、潜り込んだところで今まで柴くんが抱っこして眠ってきた女の子に比べたらやっぱり大きくて、骨っぽいだろうから。
抱き心地は、たいして良くないと思うとなんだかくっついて眠ることに遠慮してしまった。
「……」
寝る前にもう一度お風呂に入ったから、かな。
柴くんからいい香りがする。
気持ちい……。
それにあったかい。
ここにずっといたい、かも。
人肌っていうか、柴くんの体温が高いのかな。
寄り添うようにすると、じんわりと温かくて、ちょっと危険なレベル。
これ、今日は僕、仕事休みだからいいけれど、仕事があって、尚且つ早番だったら遅刻してしまいそう。この、柴くんと一緒に眠るベッドから起きるのって至難の業だと思う。
ずっとこうして眠ってたい。
柴くん、よく寝てる。
ソファで眠ってる時は毛布に包まって、狭いからなのだろうけれど身体を丸めるようにして眠ってた。だから寝顔はいつもその毛布の中に隠されていて。見えるのはアッシュグレーの髪だけだった。
すごい、かっこいい。
寝ててもかっこいいって、ちょっとずるくないですか?
睫毛に触ったらくすぐったくて起きてしまう?
髪、目元に触れていてくすぐったくない?
そっと、前髪を払おうと手を伸ばした。アッシュグレーの髪を指先で少しよけて、それからそっとそーっと撫でつける。相変わらず穏やかな寝息が柴くんの口元から零れてる。
昨日、この唇とキス、した。
たくさん。
キスってあんなに気持ちいいものなんだっけ。
じゃあ、今までしてきたキスは、なんだったのだろう。
触れるだけのキスも、激しいキスも。
唇は柔らかくて、優しくて。けれど、濃密なキスをする時は息継ぎの隙間すら奪うように激しいキスをしてくれる。
舌はちょっと意地悪だった。感じちゃってたまらないところばかり、この舌に暴かれてとても大変だった。あんまり声、出さない方がいいと思って我慢したかったのに、我慢なんてできないくらいに、全身この唇と舌で暴かれてしまった。
「……」
ぐっすり、眠って……る?
起き、ない?
ちょっと、だけ。
……キスを。
「ふ……」
「!」
起き。
「おはよ。真咲さん」
起き、て……た? 起き、た? あの。
「少し前に起きました」
え、えぇ。
「真咲さんがやっと近くに来てくれたあたりから」
えぇっ、そんなところから?
「昨日もっとくっつこうとしたけど、真咲さん落ちちゃうからってめっちゃ壁の方に行ってたからさ。そこで俺が真咲さんの方に寄ってっちゃったら、真咲さん、十センチくらいしか隙間なくなっちゃうじゃん。潰れる」
潰れない、です。俺に柴くんがこっちに来ても、別に隙間十センチにはならないよ。僕はそんなにスリムじゃないし。
「いや、スリムでしょー。昨日、抱きながら、腰の細さにびっくりしたもん」
だ、抱きっ。
「細すぎて、入る? って」
は、入るって、その。
「っぷ、あはは。俺しか喋ってないのに」
だ、だって。
「会話が成り立ってるの面白いね」
面白いっていうか不思議なんですけど。
「でも、真咲さんが百面相してるから、何考えてるのかすっごいわかる」
そんなに?
「そう、そんなにー」
言いながら、クスクスと笑ってずっと柴くんが枕代わりにしているクッションに顔を埋めた。
「真咲さん、よく眠れた?」
ぁ、朝だから、かな。柴くんの声が掠れてて、ちょっとセクシー。
「今日、俺、仕事始まるの遅くて良かったーって思った。もうこのベッドから起きたくない。真咲さん抱っこして眠るの最高」
「!」
「マジで、最高」
「!」
笑いながら、柴くんがキスをした。
「ずっとこうしてたい……」
柴くんの唇は柔らかくて、優しくて。
「真咲さん、すごい好き」
キスってあんなに気持ちいいものなんだっけ。
じゃあ、今までしてきたキスは、キスとは呼べないかもしれない。
「ふふ」
そんなことを考えてるのも百面相をしているらしい僕の表情で伝わってしまうのだろうか。
柴くんは僕を見て微笑んで、まるで閉じ込めるようにぎゅっと僕を抱き締めてくれた。
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