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第50話 嬉し恥ずかし

「…………はい?」  そんな驚き混じりの間の抜けた声が、イタリアンレストランの一角に、ぽろんと落っこちるようにセイくんの口から零れた。  女性に喜ばれそうなおしゃれな内装のイタリアンレストラン。  この間、姉さんとの会食にと連れて行ってくれたところとは別の、けれどとても素敵なレストランだ。  柴くんも今日は仕事がそんなに遅くならないから一緒に外で夕食をって誘ってもらった。  駅で待ち合わせて、一緒にレストランまで行くと、そこにセイくんも現れて。  三人でご飯なんだ、って思った。 「だから、俺と真咲さん、付き合ってるから」 「…………はい?」  コースになっていて、前菜、サラダ、パスタかリゾット、それからピザ。それぞれのプレートは自分で選べるタイプ。けれどどれもこれも美味しそうで、オーダーするのに困ってしまうくらい。そしてようやくオーダーし終えて、前菜の到着を待っていたところだった。 「はぁ? ちょ、だって、お前、ノーマル、」 「そういうの関係ないでしょ」 「はぁ?」  いや、僕もその壁はすごく大きいと思ったから、片想いのつもりだったんだけど。  バイ、ならまだしも。  柴くんノーマルで、そのノーマルの中でも女性にすごくモテる人だし。そんな人が男の僕に目を向けたくなるようなことないと思ったよ。  けれど、向けてくれた。 「で、セイ、真咲さんのこと狙ってたから、牽制」  そう言われて、セイくんが目を大きくしてじっと柴くんを見つめてから、パチパチパチ、と数回瞬きをした。 「っぷ、あはは」  それから吹き出して笑い始めて。  今度は僕が目を大きく見開いてパチパチと瞬きを数回。  セイくんが、本気で僕を、とか思ってたわけじゃない。けれど、その楽しげなリアクションの理由がわからなくて。 「まぁ、俺とお前で、恋愛対象が全然違ってたから、こういうシチュになったことないけどさ」  セイくんと柴くんは仕事仲間と言われてる人たちの中でも、より仲が良いように思えた。柴くんの職場見学をしたのはたったの一回で、その一回で彼の仕事の様子は見ることはできても、交友関係まではわからない。けれど、それでも口調や、その後の焼肉の時とかから、柴くんが特に仲良くしている仕事仲間な気がした。 「けど、お前が誰かと付き合って、牽制とか見せびらかすのとか、初めて見た」 「み、見せって、」  慌ててしまったのは僕。見せびらかす、なんて言ってもらえるほどたいそうな人じゃないから。  けれど、柴くんはちっとも慌てることなく、ちょうどそこに届いたジンレモネードを受け取りながら。 「でしょ?」  なんて、楽しそうに笑っていた。 「いや、けど、俺、けっこう本気で狙ってたんだけどなぁ」  前菜の生ハムとチーズ、それからフルーツを合えたものがすごく美味しかった。フルーツが一緒になっていることに少し驚いたけれど、生ハムに包んで食べてくださいって言われて、恐る恐る口にした。 「だと思った」 「だと思ったんなら、盗るなよ」 「人聞き悪いな。盗ったんじゃないし」 「はい? 俺が真咲さんのこと狙ってたのわかってたんじゃん。しかもけっこうちゃんと狙ってたのに」 「真咲さんの薬局まで押しかけたし」 「そう! マジで! あの日、都内でロケ同行だってけど、行ったのにぃ」 「今、映画の衣装担当してるもんな」 「そうそう……主役の人がけっこう色々気難しくてさぁ」 「あはは」 「その癒しを求めて白衣のサキちゃん見に行ったのに」 「焼肉の時だって、真咲さんと行くって言ったらついてきたし」 「ついてくでしょ。あー、確かに、あの時、壱都、不機嫌だったもんなぁ。そっかぁ、あれはそういうことかぁ」 「まだあの時は自覚してなかったけどね」 「自覚したのいつなんだよ」 「最近。真咲さんの元彼が現れて」 「何それっ! うっわ、そのタイミングの良さすごいな。それで恋心に気がついちゃったみたいな?」 「焦ったからね」 「俺がそこにいたかった!」 「あはは」  そして、セイくんがまた大きく溜め息をついてテーブルに突っ伏した。  あの、すみません。  僕は今、ちっとも会話に入れてなくて。  あ、いや、入りたいわけではなくて。  ただ、なんというか気恥ずかしさに蒸発しちゃいそうなんですけど。  美味しかったと柴くんに勧めてもらったジンレモネードが本当にすごく美味しくて、ゴクゴク飲んでしまってはいるけれど、もう二杯目だけれど、そんなに酔ってはいない、と……思う。けれど、頬の熱さがものすごいです。  照れ臭くて。  セイくんに、その好きだったのにと、まるで悔しいみたいに言ってもらうのも。  柴くんが嬉しそうに、まるで子どもがクリスマスにどうしても欲しかったものをサンタさんからもらえて、おおはしゃぎで友人に見せびらかすみたいに、話してもらうのも。 「運が良いのは日頃の行いかな」 「はぁ? お前で日頃の行いを褒められるなら、世界中みんな褒められるって」 「あはは」 「ムカつくわぁ、その上機嫌」  そして、本当に柴くんがご機嫌って感じに、ずっとずっと笑って笑顔なのも。  全部が嬉しくて、気恥ずかしくて、またジンレモネードを飲み干した喉元でパチパチと花火が弾けるような刺激にクラクラしてた。

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