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第51話 メイク

 前菜も美味しかったけど、パスタ、すごい美味しくて、ちょっとびっくりを通り越す。  というか、ラグーソースのパスタ、ほっぺたが落ちてしまうかと思った。  そして、目の前を行き交う柴くんとセイくんの軽快な会話、言葉のやり取りを楽しく眺めていた。そして、ふと、そういえば、僕は、こんなふうに他愛のない話をしながら会食をする友だちっていないなぁと、気が付いた。  こういう場、あんまり慣れてないなぁって。 「あー、サキちゃんにもう少しアピールしとけばよかった」 「え?」 「今更だけど」  そう言いながら、セイくんがクスッと笑って、彼は……何をオーダーしてたっけ。ワインだったかな。それを一口、口に含んだ。  今、柴くんはトイレに行っている。二人っきりになると、さっきまでとても賑やかだったセイくんが少し声のトーンを下げて、溜め息混じりにそんなことを言っていた。  アピール、か。  僕は……どう返事をするのが良いのかわからない。そんなふうにアピール? をしてもらうことが不慣れで、こういう時、どう答えるのがいいのか、少し考え込んでしまう。 「まぁ、あれ」 「?」 「それでも、壱都はノンケだからさ、不安になると思うよ」  それは……うん。  僕もそう思う。 「あいつ、女の子にとにかく優しいからさ」  うん。僕も、それは思う。仕事柄もあるだろう。けれど、きっと柴はそもそもそうなんだ。性別問わず優しくすると思う。だからこそ、僕はきっと好きになった。恋愛なんてしないと思っていた僕がそれでも好きになったのは、彼が優しい人だったから。 「それでも、一番好きな人には一番優しくするタイプだからさ。なんかあったら連絡して。相談乗るし」 「! うん」 「あ、あと、相談は乗る。けど、一番手っ取り早い悩みの解決法は彼氏をノンケじゃなくて、同じゲイの俺にすることだと思う」 「! っぷ、あはは、うん」 「いや、笑うとこじゃなくて」 「うん」 「いやいや、そんな軽く返事するとこでもないって」 「って、何? 真咲さん、めっちゃ笑ってる」  そこに柴くんが戻ってきた。僕が笑っていて、セイくんも小さく笑っていて。 「いや、俺にしとけばいいのにって話してた」 「はい?」 「うん。話してた」 「はぁい?」  けれど、柴くんは笑わずに、おいって、しぶーい顔をして。 「まぁ、それはないけどね」  それから、一番、柴くんが笑っていた。  本当に美味しかったなぁ。  初めてあんなに美味しいパスタを食べた。 「楽しかった?」 「うん」 「パスタ、けっこう美味しかったでしょ?」 「うん。ずっと食べてたかった」 「ならよかった」  本当にずっともぐもぐしていたかった。  あと、お酒も美味しかった。ジンレモネード、すごく飲みやすかったけど、多分、お酒としては強いんじゃないかな。お店を出る時、立ち上がったら思ったよりも足元がふらついてしまってる。  ほら、ポーンって、足を放り出すように歩いてる。 「真咲さんって、食べ方綺麗だよね。それは最初から思ってたんだけどさ」 「そう?」 「育ちの良さが滲み出てる」 「ふふ」 「笑い方も綺麗だし」 「えぇ?」  笑い方に綺麗とかあるのかな。 「所作が綺麗っていうかさ。仕事柄、かなぁ。人間観察しちゃうんだよね。その人がどんな考え方なのかとか、どういう人なのか。メイクするのって、まさに“メイク“だからさ。その人のなりたい姿にするっていうか」 「うん」 「で、なんとなく、真咲さんは、そのままで十分綺麗なのに、それに気がついてないっていうかさ」  僕? 「だから、髪、そのままでいいよって、めっちゃ言った」 「……」 「けどそれだと“メイク“するって俺の仕事とは違っちゃうから矛盾してるんだけどさ。ストパーで髪を矯正してなりたい自分になろうとするのを手伝うのが俺の仕事なんだけど、俺は、そうじゃなくて、そのままの真咲さんが綺麗だなって思って。あー、だから、矛盾はしてるんだけど。今の方がいいよ」  柴くんが困った顔をした。自身の仕事と、自分のしたいことがちょっと違ってしまったって、困った顔で、その矛盾にぐるぐるしている。 「……僕、今日、楽しかった」 「うん。ならよかった」 「あまり友だちいなくて」 「……」 「仕事が終わると、フラフラして遊んで。でも、そこで会う人は、ね。目的がさ」 「……」 「だから、話すのはいつも探り合いっていうか」  この人とセックスしようかな、どうかな。上手かな。面倒くさいことないかな。そんなことを会話の中から探すための時間でしかない。  他愛のないことを、探りなしで話したり。  自分の話したいことを話したり。  そういうのは、したことがあまりない。 「友だちとの会食、楽しかった」  ご飯を楽しく食べて、楽しく飲んで。 「それと、か、彼……シ、とのご飯も、楽しかった」  探らない。  値踏みしない。 「前の僕は知らなかったよ」  癖っ毛の僕。 「これは、柴くんが作ってくれた、見つけてくれた、僕、だよ」  きっと、本当の、僕を。 「ありがとう」  柴くんが探して見つけて、メイク、してくれたんだ。

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