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第54話 友だち
ーー今日は撮影長引きそう。帰り遅くなると思うから、先に寝てて。
……そっか。
仕事中、お昼休憩で柴くんからのそのメッセージを読んだ。
一緒に眠る時は同じベッドで眠ってる。けど、柴くんは仕事柄、翌日の準備をしないといけない時とかもあって、そんな日は柴くんだけソファで眠ってる。別にそんなに気を使わなくていいのに、僕が起きてしまうからって。
けれど、ソファじゃ窮屈でしょう?
「ベッド……かぁ」
買い替える? 少し大きいものに。でも部屋はもっと狭くなるよね。今でも別に広いわけじゃないのに。そこに男二人で生活するのにもっと更に狭くなるのは、ね。
かと言って引っ越し……はさすがに大袈裟でしょう?
「さすがにね……」
そう独り言を呟いて、柴くんに「了解です」ってスタンプを送信した。
「あ、お疲れ様でーす」
そこに薬局のパートさんが入ってきた。僕のいる医薬品エリアじゃなくて、店内エリアで品出しとかレジとかを担当しているパートさん。
「あ、葉山さんも、もしよかったら、いかがです? この前アルバイトの子、送別会やったじゃないですか? あの時、二次会で行ったお店がすごく美味しくて、今日あの時、参加できなかった人に声かけて、みんなで行こうって話になって。もしよかったら」
送別会……ぁ、僕が一次会で帰った時のだ。
二次会には行かずに僕はバーで……。
「あ、もしよかったら、なんですけどー。主婦ばっかだけど、あ、でも、大学生の子も来るって言ってて。歳近いから、葉山さんがアドバイスしてもらえたらなぁなんて話してて」
「?」
「ほら! 就職活動!」
そう、なんだ。
「そっか。もう六月過ぎましたもんね」
「? 六月って何かあるんでしたっけ?」
そう言って、パートさんが不思議そうに首を傾げた。
「あ、はい。就職活動、というか企業側がリクルート採用活動解禁になるの六月なんです。っていっても、けっこうその前に始めちゃうとこ多いですけど」
「そうなんだ! やっぱ詳しい! ぜひ」
彼女はパンと手を叩いて、ほら! と、目を輝かせた。
そう、確か一応は六月解禁になってる。でもどこの会社もそれじゃ遅いって、それよりも早くに新入社員を確保したいから動き始めてしまうけれど。もうこの時期だと内々定が決まってる人もいるんじゃないかな。僕は、そんなに就職活動しなかったけれど、周囲はチラホラ、内定を出した会社の値踏みとかをしてたのを覚えてる。
「あー……」
今までは、行かなかったんだ。
今までなら、きっと、何か食べたいのに、自分が何を食べたいのかもわからずにウロウロしてばかりで、こういう会食って断っていたから。けれど――。
「じゃあ、僕も」
「わ! やった!」
けれど、行ってみようかなって思った。
楽しかったから。セイくんと、柴くんと、一緒に食べた夕食は楽しかったから。
「お邪魔、します」
行ってみようって、思ったんだ。
「えー? 私だったらどうするだろー。確かに迷うかもー」
今日の会食に誘ってくれたパートさんが頭をゆらゆらと前後に揺らしながら、うーんって、唸って考えてくれている。
「私! 買っちゃうわ!」
「あ、田中さん、リッチー」
「え、だって、寝るのに狭いのは不便じゃない?」
「そうだけど、まだ付き合いたてなわけじゃない? 田中さんってば」
「そうだけど、でも、私寝相悪いのよ」
「そうだけど」
「あはは、そこはそうだけどじゃないのでしょー」
寝相が悪いらしい田中さんがそこで高らかに笑った。
今、話し合っているお題は、僕の部屋の小さなベッド。
恋人がいることを、話してしまった。
ちょっとどころじゃなく緊張したけれど、でも、ちょっとかなり悩んでいたし、今日ここにいるのは主婦で旦那さんのいるパートさんが数名と、大学生四年生の藤野(ふじの)さん。きっと彼女の送別会も来年行われるのだろう。
「でも、ベッドだけの部屋になっちゃうじゃない? 田中さん」
「それは……じゃあ、引っ越しも」
「えぇ? でも、長続きするかわからないじゃない? あっ、でもっ、これは私ならってことよ? 葉山さん誠実そうだから、長続きするわよ。するする」
「あは、は……」
誠実……な人なら、きっと、毎夜毎夜、違った相手とセックスしないけど、なんて、今、脳内で考えてることを読まれたら、明日から職場に顔出しできそうにないことを一人で思って、つい苦笑いになってしまった。
「あ、あの、でも、私なら、ちょっと大きめのソファベッド、とか良いかなって」
そうアドバイスをくれたのは今、大学生の藤野さんだった。
「あのっ、友だちがそう言ってたのでっ」
少しおとなしくておっとりしている感じの子だった。やっぱり少しマイペースなようで、就職活動もまだ始めていないと言っていた。土日だと長くいることもあるけれど、挨拶を交わす程度で、話したりしたことはなかったけれど。
「あ、えっと、友だちが買ったのが、これでっ」
ちょっとおっとりしすぎてる印象だったけれど、でも、一生懸命に、僕のために大きめのソファベッドをスマホで探してくれていた。
「寝心地そんなに悪くないって言ってましたっ」
少し人見知りするタイプなんだと思う。こう言ったら失礼だけれど、ちょっとだけ僕に似ているなぁ、なんて。
「ありがとう。参考にします」
思ってしまった。
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