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第55話 ヤキモチキス
ソファベッド、か。
それならいいかもしれない。
寝る時は別に部屋がベッドしかない状態でも構わないわけで、昼間、それをソファにしてしまえれば、何も気にならないし。むしろ、今、二人で眠るには小さすぎるベッドと、柴くんがベッドの代わりに使っていたソファの二つ置き状態の部屋よりも広く使えるんじゃないかな。
ちょっと、本当に考えてみようかな。
そう思って、帰り道、ふとスマホを取り出した。
会食、楽しかった。
和気藹々としていて。
そう、セイくんと柴くんと一緒にご飯を食べてに行った時みたいに楽しくて。
ちょっと食べすぎてしまった。
また会ったら参加します、なんて言ってしまったくらい。
ソファベッドのことだけじゃない。恋人いるの? って訊かれて、ちょっと照れ臭かった。恋人ならいます、って答えちゃった。パートさんがなんだか楽しそうにしてて、色々訊いてきてくれて。生まれて初めて、恋人のことを話しちゃった。
ほら、宇野の時は、周囲に絶対に言えなかったし。宇野も絶対に言わないように、周囲に知られないようにしてたから。僕も家族のことがあったから、誰にも知られないようにしてて。
そう考えると僕って、宇野にとってすごく好都合な遊び相手だったんだろうなと、今さらになって気がついた。
歳は近いの?
もしかして一緒に住んでるの? 帰りがいつも忙しそうだったからぁ。
だって、よく見てるよね。
帰りがいつも忙しそうだったのは、全然違うことで、だったけれど。こういう食事の場に来なかったのはそういうことだったのねって。
もちろん、性別とか、柴くんの仕事とかの話はしてない。
言ったら驚くだろうな。
よくうちの薬局にも来ているアッシュグレーの髪色の彼です、なんて言ったら。パートさんたち黄色い悲鳴を上げそう。多分、知ってるだろうし。あんなに目立つお客さんのことならさ。
今度さりげなく訊いてみようかな。
「あー、いけないんだー」
「!」
アッシュグレーの髪色のお客さん。
「歩きスマホしたら」
知ってますかって。
「…………柴くん」
帰り、遅いんじゃなかったっけ?
「案外早く終わっちゃった」
「そうなんだ」
「職場の人たちとの会食、楽しかった?」
「! うんっ、あのすごく楽しかった」
「そっか」
ソファベッドのこと教えてもらったんだ。って言いたかったけど、言ったら、なんだか、あれかな。さすがに、その。
でも、今、スマホでちらっと探しただけでも良さそうなベッドがいくつもあった。価格もそんなに高くない。五万円いかないくらい。それなら、普通にただベッド買い替えようと思ってた、みたいな感じで買えるかな。
だって、ほら、柴くんと一緒に寝るため、なんて言ったら、ね。
ちょっと気恥ずかしいし。
「みんなパートさん?」
「あ、ううん。大学生の女の子もいたよ」
「へー」
「みんなその子のために僕のこと呼んだ、みたいで」
「え?」
「就活とかね。でも、大学四年生なんだけど就活してないっぽくて、ほら、就活始めるとやっぱりみんな少しシフト減らすんだ。なのにその子、いつもけっこう入ってて。あ、あと少しおっとりしてる感じの子で」
パートさんがよくおしゃべりたくさんするせいもあるんだろうけど、自分から率先して会話に入っていく感じの子じゃなくて。かといって暗い、無口ってわけじゃないよ。話と朗らかに答えてくれるし。一緒にいて、気後れしないでいられる感じの、良い子だなって思った。
でもそんなだから、自分のことを率先して話す感じじゃなくて。
だからこそ、パートさんたちがおっとりしてるから就職活動のこと忘れちゃってるんじゃないかって心配して。一番歳の近い僕を招いてくれて。
「でもね。その子、薬剤師目指してて。だから、四年生じゃ就職活動しないんだ。プラス二年あって。五年の時に病院とか薬局での実務実習あったり、六年で卒業研究やるために研究室に所属したりするんだ」
そりゃ、就職活動しないよね。まだ薬剤師になるための国家試験受けてないもの。
「あ、でも五年の実務実習はうちの医薬局でお願いできないのかなって言ってた。そしたら楽だよね」
「……」
「少し人見知りしそうな子だったから、新しく調剤薬局で実習するより慣れたうちの医薬局でしたいだろうなぁ」
「……俺、今までは、逆に心広すぎって言われてた」
「?」
どうしたの? 急に。
そう訊こうと思って、顔を上げたところだった。
「マジで」
「……」
そう呟いて、柴くんが僕にキスをした。
触れるだけのキス。
でも、マンションはもう目の前。
駅まで迎えに来てくれた柴くんと話しながら、まだ、ここ、外で。
終点駅だから、人は確かに、もう誰もいないけれど、それでもここ外で。
「……」
びっくりして、おしゃべり、止まってしまった。
「だから、心狭、こいつ、っって思わないでね」
心狭いなんて、思わないよ。
「マジで、今までは、逆に付き合ってる子が誰と遊んでも全然気にしないし、むしろ楽しんで来たらいいよって感じで。逆にそれじゃ付き合ってる意味ないよって相手の子に言われるくらいだったから」
柴くん、が。
「だから、とりあえず、今回、特例なんで」
心狭いなんて、ちっとも思わない。
「真咲さん」
ただ、君のことが好きですって、だけ、思った。
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