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第56話 三回目は

「あっ、柴、くんっ」 「それ、好き」 「?」  気持ち良すぎて、思考がふわふわになりながら、何が? って、わずかに首を傾げると、柴くんが僕を見下ろしながらニコッと笑った。 「真咲さんの、柴くんって言うのがさ」 「あっ、待っ……柴くんっ」  奥、クンってされて、つま先がピンとしてしまう。 「ほら、ちょっと声、高くなるの」  突き上げられて、勝手に口から甘えた声がこぼれ落ちる。  これ、恥ずかしい。  声。 「あぁ、ンっ」  今まで、他の人とその場限りでする時は盛り上げるためだったり、自分も興奮したくて、声、あえてたくさん出したりしてたのに。  柴くんとだと、自分のこの甘い声が気恥ずかしくてたまらない。  変な声って思う。 「もっと聞きたい」 「あ、やぁ……ンっ」  ね、変な声、でしょう?  甘ったるくて、けれど、きっと柴くんには聞きなれない低い男性声の喘ぎ、でしょう?  聞き慣れない、でしょう?  だから、できるだけ出さないようにしたいのに、声がこぼれ落ちて仕方ない。 「すごい、ヤバい」 「あ、あ、あっ」  勝手にこぼれちゃうんだ。  大丈夫?  違和感とか。  もっと可愛い声ならいいのに。  気持ちよくてたまらなくて。  抑えられない。 「好きだよ」  だって、なんだか三回目のセックスはなんだか、ちょっとーー。 「あっ、そこっ」 「い?」 「う………ンっ」  一回目よりも甘くて。 「あぁっ、奥っ」 「うん」  二回目よりもわがままで。 「やば、真咲さんの中」 「あ、あ、あ」  たまらなく気持ちい。 「搾り取るみたいに、中がなってるよ」  だって、搾り取りたい。柴くんのこと誰よりも気持ちよくしてあげたい。俺とのセックスが一番良いって思ってもらいたい。  だから、中が柴くんのに媚びるように絡みついてしまう。  中だけじゃない。  脚をいっぱいに広げて、乳首だって、可愛がってもらいたそうにずっと硬くなってる。前だってはしたないくらいに濡れて、カウパー、でとろとろで。  濡れられないけど。 「っ、真咲さん」 「あ、もっと……っ、アっ、ン」  感じてるって、気持ちよくて仕方ないって。奥まで欲しくてたまらなくなってるって伝えるように、身体も気持ちも、甘ったるく媚びて絡みつこうとしてる。 「い? 真咲さんの奥、入って」 「っ」  柴くんのことしか考えられない。 「そこ、イっちゃぅ……ン」 「ここでしょ?」 「あっ、あアっ……あ、そこっ」  もっと奥まで柴くんに犯されたくて、もっと全部に触れて欲しくて、どんなはしたない格好だって、今、できちゃうよ。 「あ、あ、あっ、柴くんっ」 「うん」 「イ……クっ」  柴くんにもっと触れたくて、ぎゅっと抱き締めると。 「ンっ」  舌をたっぷりと絡める、甘くて、溺れてしまうようなキスをしてくれた。  そのまま激しく奥を何度も突き上げられて。 「ン、んっ、ンンンンっ」  キスをしながら、腕でしっかりと捕まえられながら、奥に彼を感じた瞬間、頭の中が真っ白になってた。 「薬剤師を目指してる女子大生かぁ」  ポツリと柴くんがそんなことを呟いたのが狭くて小さな一人でちょうど、なサイズのバスルームに響いた。 「柴くん?」 「そんな子いたっけ?」  藤野さん、のこと? 「いた、かな」 「……」  言いながら僕を抱えるように湯船に浸かってる柴くんが小さく小さく「うーん」って唸りながら、何かを思い出したいように、天井を見上げた。  一緒にお風呂に入ってしまった。  ベッドで裸になるのと全然違う。日常の中で、柴くんに裸を見られると、なんというか、その、申し訳ないというか。女の子との違いがすごく浮き彫りになりそうで。  けれど、腰に力が入らなくて、一緒に入ることになってしまって。 「…………あの、でも」  今、柴くんが藤野さんのことを思い出そうとしてる。自分が整髪料を買いに来た時にそんな女の子はいたかなぁって。いたかも、しれないけど。いなかった、かも。彼女が入るのは夕方からで、柴くんは大体日中に来てたから。  その彼女がどんなだったか気にしてる。  僕と同じ薬剤師になろうとしてる彼女に。 「僕」  もし。  もしもね。  万が一にも、億が一にも、ね。  その気にしてる理由が、その、僕が彼女のことを、好きとか、そういうことを。 「女の子は恋愛対象じゃない、よ」 「……」 「あ、いや、そういうのじゃなかったら、ごめん。あ、違くてっ、えっと、あれっ、彼女はあんまり昼間は入ってないからっ、だから、見たことないかもしれないっ、けど、その」  違ったかも。自惚れた、かも。  大慌てで恐る恐るこぼした自分の言葉をかき集めるように、バスルームに言い訳を響かせた。 「はぁぁぁぁ」 「柴、くん?」  僕は抱き抱えるように柴くんと同じ方向を向きながら、彼の足の間に座ってる。これだってさ、内心、色々心配なんだ。一緒にお風呂入ってもらったのだって心配事だらけでさ。  こうしてたらすごくよくわかるでしょ? 僕が男だってことが。 「わかってないなぁ、真咲さんは」 「? 柴くん?」 「俺のとこにメイクのこと教わりたいんですって、若い男が来たら」  ちょっと、焦る、かも。 「それと一緒です」 「えっ?」 「もちろん、俺の恋愛対象、女性だから、ちっともだよ? けど、焦るでしょ? 俺も一緒。真咲さんの恋愛対象の性別じゃない子でも焦るんです」  だって、僕、柴くん、だけだよ。  恋愛、したの。 「ちなみにー」  柴くんだけ。 「真咲さんだけだよ」 「……」 「同性なのにこんなに好きなの」  振り返った。そっと、振り返ると。 「だから、あんまそんな可愛い顔しないで」  柴くんがじっと僕を見つめて。 「また襲いたくなるじゃん」  そう言って、濡れ髪を掻き上げると、優しく微笑みながら深く、デザートを頬張った時みたいな幸福感に満たされる、そんな。 「……真咲さん」  甘いキスをしてくれた。

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