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第57話 僕らのサイズ
ーーちなみに、真咲さんだけだよ。同性なのにこんなに好きなの。
そう言ってた。
そんなふうに、言ってもらっちゃった。
「やっぱりCBTの勉強進めないとなぁって思ってて」
けっこうすごいこと、だよね。それって。だってだって、柴くんなら可愛い人も、美人もたくさん知ってると思うし。前に交際してたのが太田リコさんだもの。
「五年に進むには必要な試験じゃないですか。そこパスできなかったら実地研修なんてできないから」
でも、そう、なんだよね。
僕が女性なのに好きになるようなこと、でしょう?
どうやってもない、と思うもの。僕が女性を恋愛対象として見るってこと。絶対に、ありえない。ドキドキもしないし、その、したいな、とも思わない。一ミリも。
「でも両立って難しくて……あのっ、葉山さんはその辺りどうしてましたか?」
でも、柴くんは思ってくれたわけで。
それって、けっこう、相当……うん……すごいこと、だ。
だからすごく。
「葉山さん?」
「はっ、はいっ」
思わず大きな声で返事をすると藤野さんが目をぱちぱちとさせた。
「CBTとの両立について聞きたくて」
「あ、えっと、CBT、共用試験のこと、か……えっと、五年次に進むための」
「はい」
「あ……と」
「日々の講義との両立が難しいなぁって」
「あ……」
つい、考えちゃってた。
ちょうど休憩が藤野さんと一緒になって、薬剤師を目指してるから、色々訊かれてたんだった。
前だったら、お疲れ様ですって挨拶だけ交わしてあとはそれぞれスマホを眺めたりしながら、あまり会話はせずに過ごしてたと思う。きっと藤野さんも人見知りするタイプなんだろう。こんなにたくさん喋るタイプだとは思わなかったから。
「私、不器用だから」
昨日の柴くん、なんだかすごかった。
ヤキモチ? だったりする? いやいや、そんなヤキモチなんてする必要ないよ。僕、なんだから。そうモテないし。
けれど、ずっと僕のこと抱きしめて離さなかったし。
お風呂場でも、その一回しちゃったし。
なんていうんだろう、その、えっと、あー……なんていうか、「俺のもの」感? なんて? 思ってみたりして? いや、別にその、そんなふうに思えたってだけで、そうと言われたわけじゃないし。全然。気のせいだし。
「葉山さん?」
「は、はいっ!」
「ご、ごめっ」
だから、もう、藤野さんが相談してるんだからそっちに集中しないと、でしょ?
「…………あは」
「?」
「なんか、葉山さんって可愛いですね」
「は、はいっ?」
「ストパーかけてたじゃないですか。その時は少し近寄りがたかったけど。なんか、パーマかけた辺りから、少し雰囲気が柔らかくなったっていうか」
「……あ、これ、天然、クセっ毛なんだ」
「え! そうなんですか? すごく素敵です。それに、今の方が私、話しやすくて好きです」
そう? かな?
「で、CBT……」
「あ! はい! えっと」
そうそう、そうだよ。それ、話さなくちゃだ。僕は慌てて今度こそは相談に乗ってあげないとって、意識をぎゅっと藤野さんの方へだけ向けた。
「それでさーメイクで色々カバーしながら、真咲さんって、ほんと肌キレーだなぁって思い出してさぁ」
「僕?」
「そ。けど、そんなに手入れしてないもんね。化粧水とかも塗らないじゃん」
「う、ん」
「手だってハンドクリーム塗らないでしょ」
「うん」
そこで、柴くんが「すごー」って言いながら、作り立ての麻婆豆腐をご飯に乗せてパクりと食べた。
「…………化粧水」
「そー」
「柴くんも何かそういうのしてる?」
「?」
「いい匂いする」
柴くんって、ぎゅっと抱き締めてくれた時に、ふわりと、いい匂いがするんだ。爽やかで、柑橘系、とかかな。普段話してる時とかはあまり感じない。近く、ものすごく近くに行った時だけ感じる匂い。
毛布にも付いてるよ。その匂い。
って、わー、今思い出すことじゃないけど、僕その匂いにムラムラしちゃったっけ。
わー、わー、思い出しちゃった。
「なんで顔赤いの」
「ひゃへっ」
思わず飛び上がってしまった。
あの時はつい、ね。その、魔が刺したというか。普通にすごく失礼というかマナー違反というか。
「いい匂いかぁ」
「う、うんっ」
僕の赤面に不思議そうにわずかに首を傾げてる。
「けど、真咲さんもいい匂いするよ?」
「え、えぇっ!」
す、する? 僕? 何もしてないけど。
「するする。真咲さんの匂い」
「え、えぇ……」
知らないし、それ、変な匂いじゃない、よね?
「近くに行くと……っと」
そう言いながら柴くんが小さな、僕一人用のテーブルで向かい合わせに座っていた場所から、スススッと隣に移動してきて、肩をぴたりとくっつけた。
「なんか、真咲さんって匂いが」
「えぇ」
知らないし。それ。
「好きだよ、真咲さんのそばに行って、この匂い感じると、落ち着くっていうかさ」
そ、そう?
「すっごいぐっすり眠れる」
それなら、よかった。
「毎日快眠です」
なら……うん。やっぱり買ってもいいかもしれない。ソファベッド。そしたら、柴くんは毎日ぐっすり眠れる、でしょ?
「真咲さん抱き枕」
「ひゃえっ」
「あはは」
でも、これは小さくてもいいかもしれない。
テーブル。
「だ、抱き枕にしては大きく、ない?」
「ぜーんぜん」
小さいけど、ほら、このサイズだったら。
「じゃ、じゃあ、ぜひ、抱き枕、どぞ」
ご飯を食べる時がとても楽しくなるから。
テーブルに関してはこのままのサイズでちょうどいいかもって、思った。
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