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第69話 わかったこと

「ごめんね。あの、仕事中だし、邪魔だと思うんだけど、今、ちょっとだけ、どうしても顔を見て言いたくて」  じっと柴くんが僕を見つめてる。  真っ直ぐに。  ほら、ね。  表情が違ってる。  僕がよく知ってるこの表情をーー。 「僕…………ぇ……と」  言いたいことがたくさんあった、けど。  溢れるくらいにあるように感じたけれど。 「あれ? …………」 「?」  いざ、言葉にしようと思ったら、ひとつだけだった。  いっぱい、本当にあったんだ。思ったことならたくさん。  それを今伝えたくてここまで走ってやってきたはずなのに。 「え……と」 「? 真咲さん?」  ナナミさんと二人で写ってた写真を見ました。楽しそうに話していたけれど、僕が一緒にいる時に、柴くんが笑ってくれるいつもの笑顔と彼女に向けていた笑顔が違ってました。僕へ向けてくれるのはもっとふわふわとしていて、柔らかくて、見ていると優しい気持ちになれる笑顔で。ナナミさんに向けている笑顔とは違っていました。ナナミさんにむけていた笑顔は、優しそうだけれど、ちょっと違う。もっとクシャって、目元をさせて笑ってくれる。  他の人とも話している時の表情を写真で見たけれど、やっぱり、どれも僕に笑ってくれる時とは違っていて。  気がついたんだ。  だから、その、つまり、僕は、僕が思っている以上に柴くんに好きになってもらえてるんだと思えて。  でも、それは柴くんにしてみたら、あえて言われなくてもいい話なのだろうし。  僕も、「柴くんにとても好かれてました」なんて言うのは自意識過剰みたいで恥ずかしいし。  じゃあ、僕が今、柴くんに話したいことはいったいなんだろうと思って。 「あの」  ほら、柴くんは僕のことを真っ直ぐに見つめてくれる。  それなのに、どうして迷ったりしたんだろう。  僕でいいのかな、なんて。  どうしてあんなことを考えたんだろう。  いつかは、なんて。来年の今頃、君はどこにいるのだろう、なんて。 「好きです」  きっと隣にいてくれる。  隣にいたいって思ってくれてる君と。  なんで正反対のことを考えたりしたんだろう。 「って、ぁ……急に、ごめんなさい……その」  意味がわからないでしょう? 急に仕事場まで押しかけてきて、好きです、なんて、分かりきってることを言い出したりして。 「えっと」  うん。  分かりきってたことなのに。  僕が君を好きだなんてことは。 「ぁ、の、それだけ、です。ごめん。あの、ご飯、食べてくる? 帰り、遅くなるでしょ? そしたら、僕は適当に」 「昨日はごめんっ」  え? あの、どうかしたの? 「モデルの件」  あ……うん。 「俺、なんか、ちょっと嫌な感じに返事した」  そう? だった、かな……そんなに、そこまで、謝るほど嫌な感じだとは。 「いや、すごく、その、真咲さんがしたいことを邪魔はしたくないって思ってる。本当に。けど、なんていうか、その……ぶっちゃけ」  ぶっちゃけ……。 「すごいカッコ悪いんだけど」  え? 柴くんがかっこ悪い時なんてないのだけれど。 「モデルなんてやって、真咲さんファンが増えると困るなと」  え? って。  ポカン、って。  してしまった。 「心狭いんだけど、なんか、あの時は、え? って、思っちゃって。いや、けど、全然、真咲さんがしたいことを止める、やめさせる権利とかないし。そもそも、真咲さんにはやりたいことやって欲しいし。応援する。本当に。だから、その」  言われてみれば、そうだったけれど。少し、昨日の柴くんは不機嫌そうだったけれど。  まさかそんな理由だとは思わなくて。  あ、でも、前に、焼肉屋さんに行った時、セイくんも来て、というか、柴くん的には「来ちゃって」の方が合っているのかもしれないけど。その時も不機嫌そうになったっけ。 「ふふ」 「!」  柴くんは意外に、そういうところがあるのかもしれない。 「いや、マジで、心狭って思うんだけど、今まではそんなことなかったんだ。だから、なんて言うか」  子どもみたいなところ。 「ううん。嫌われてるとかじゃなくてよかった」 「はい? 嫌うわけないでしょ。っていうか、こんな心の狭い奴って、俺が嫌われるでしょ」  それは、大丈夫です。  特に嫌ってないし、むしろ、その心の狭い柴くんのことが愛おしいと思ったから。  きっとそれも、あの僕に向けてくれる笑顔と一緒なんだと思う。僕だから、ぎゅっと狭くなってしまうのだと。もちろんこれも気恥ずかしいし、自惚れ屋みたいになるから、言わないけれど。 「嫌わないし」 「本当に?」 「うん。本当」 「めっちゃ、すっごい狭いかもよ」  そう言って、親指と人差し指の間を一センチくらい開けて見せてくれる。このくらいに狭いかもしれないって。それは確かにとても狭そうだけれど。 「大丈夫」 「えー、大丈夫、かぁ」 「じゃあ大歓迎」 「マジで?」 「多分」 「多分?」  また笑った。柴くんは小さく笑ってた。 「僕、帰るね」 「え? マジでそれだけ?」 「うん」 「あ、待ってて。まじですぐに仕事終わらせるっ。だから、飯一緒に食べよ。待っててマジで」  うん。わかりました。 「マジでっ」  うん。すごくわかった。 「はい」 「ご飯、適当、とかしないように! 一緒にちゃんと食べよう!」 「うん」  僕は君にとても好かれてるって、すごくわかった。

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