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第70話 お喋りなんだ

 不思議だ。  こういうセックスの始め方に。 「あの後、他のスタッフさんに、なんか急に気合い入ったねって言われた」 「そうなんだ」  ドキドキしてる。 「それまで、ちょっと集中しきれてなかったし」  一夜限りの相手とばかりしていた頃、一度、淡々とし始める人に当たったことがあった。  普通、ムードというかテンションみたいなものを作っていく。前戯しながら、気持ちを昂らせて、セックスをするっていう雰囲気を盛り上げて、って感じなのに。  その人はまるでどこか飲み屋でのんびりと他愛のない話をしている時みたいに事を初めて、なんなんだろうこの人は、外れだったなぁって思ったことがあった。  だって食事や掃除洗濯、日常みたいな雰囲気だったんだもの。  セックスしようとしてる雰囲気じゃなくて、変な夜だった。  キスしながらお互いの服を弄って、性感帯を探し合って、じゃない。  さっきのお店のこれが美味しい、あれが美味しい、なんてオススメを聞きながら、違いの服を脱いで行ってさ。  なんだろ、これ、なんて思ったのを覚えてる。  今、この雰囲気がすごくそれに似てる。 「集中、できなかったの?」  そうなの? と首を傾げると、柴くんが笑って、僕に軽くキスをした。  ほら、この淡々とした感じ、すごくあの夜の、「ハズレ」って思った雰囲気に似てるのに。  今、どんな愛撫を交わすよりも、早く、柴くんとしたくてたまらないってなってる。  色っぽくなんてないのに。ムードなんて、ちっともない会話をしてるのに。 「うん。ぶっちゃけ全然」 「えぇ?」  それから、柴くんはまだ濡れてる髪をバスタオルでゴシゴシと拭いていく。 「真咲さんのことで、色々考えてたんで」 「僕?」  そうです、って、また笑って、濡れた髪をかき上げた。 「はい。バンザイ」 「ん」  そう言って、僕の着ていたTシャツを脱がしてくれた。 「いや、だって、普通に昨日の俺、態度悪かったでしょ」 「んー」  そこまでじゃなかったような。 「いやいや、態度悪すぎです」  今度は僕が履いていたハールパンツのゴムのところをクンって指先で引っ張ってる。腰を浮かすと、スルッと上手にそれも脱がしてしまった。 「嫌われます」 「えぇ? 嫌わないよ。むしろ」 「?」 「僕は、柴くんに……」  そんなに好きになってもらえることの方が、信じられないし、そもそも、そこまで好きになってもらえるわけがないと思ってたくらい。 「いや。フツーに考えて、よっぽどだと思うよ?」 「?」 「俺が同性を好きになるっていうこと」  うん。だから、それは今だけの奇跡だと思ってた。 「そんな奇跡を起こしちゃうくらい、真咲さんが好きってこと」 「……」 「違うか」 「?」 「真咲さんだから好きってこと」  そして裸になった僕の上に覆い被さってくれる。 「あと、もっと話して」 「……」 「一応、今でも大体真咲さんの考えてることわかる」  うん。柴くんに前に顔にたくさん出てるって言われたことがあった。  だから、よく僕が何も言わないで、柴くんとの会話というかが繋がってるような時がある。僕が心の中で答えてることが聞こえてるみたいに、柴くんが言葉を返してくれるんだ。 「けど、もっと話して。じゃないとわかんないことも多分ある」 「……」 「今日だって、きっと、なんか思ったことがあったから、突然来てくれたんでしょ? セイヤが言い出したモデルのことだって、なんか、考えて、OKしたんだと思うし」 「……」 「思ってること、思いついたまんまでいいから、整理とか、しなくていいから、教えて」  そして、柴くんがコツンと額を僕にくっつけてくれる。  まるで、その触れたところから僕が考えてることを感じ取ろうとしているみたいに、目を瞑って、そのまましばらく、じっと。 「……ぁ」 「うん」 「の」 「……」  僕の言葉の続きを待っていてくれる。 「ナ、ナナミさん」 「?」 「ナナミさんは、柴くんのこと好き、だと思う」  額はずっとくっつけたままの柴くんが、少し、目を見開いてから、そっと伏せ目がちになった。 「この前、スタジオで待ち合わせてた時」 「あー、うん」 「ナナミさんが来た」 「……」 「それで、僕を見て、多分、柴くんが付き合ってる人が僕ってわかっちゃったと思う。それでも、全然差別とかしないし、明るくて、優しくて、あと」  柴くんのことがすごく好きだと思うよ。  そう小さく、腕の中で、小さく呟いた。 「でも、俺は」 「でもね、僕は」  言葉が重なったら、ふと、柴くんが止まって、僕の言葉の続きを待っていてくれる。 「僕は、それよりももっとたくさん、柴くんが好き」  額のところからも僕の考えてることが伝わればいい。 「ナナミさんはすごく柴くんにお似合いだと思う。同じように才能があって、センスがあって、おしゃれで、可愛いし、その、女の子、だし」 「ちょ、真咲さ、」 「けど、僕も、柴くんのこと好きだから」  額からだけじゃなく、触れたところから全部、僕の気持ちが伝わるように、手を伸ばした。  そのくらい、額からじゃ足りないくらい、僕の気持ちが溢れてるから。 「誰にも、あげたくない、です」 「……」 「柴くんのこと」 「うん」  苦しいくらいに柴くんの抱き締めてもらえると、全部、本当に気持ちが伝えられる気がしてホッとした。 「それから」 「うん」  本当は、きっと僕はお喋りなんだと思うよ。 「柴くんのこと、壱都って呼びたい」 「!」 「ナナミさんも、セイくんもそう呼んでるし、僕も名前で呼びたい」 「うん」  ちょっと苦しいくらい。 「最高」  身体をくっつけたい。 「ねぇ、もっと色々話して」 「う、ん」  君が好きでたまらないから、どこもかしこもくっつけて、大好きだと伝えたくて、たまらなかった。

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