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第14話 溶解する境界

帝都ガルドラの夜は、どこまでも深く、重い。 窓から差し込む月光すら届かぬ部屋の隅で、カーツは己の存在がゆっくりと削り取られていく恐怖の中にいた。 背後で固く縛り上げられた両手。反らされたまま固定された上半身。そして、身体の奥深くを執拗に押し広げ、楔のように打ち込まれた翡翠の重圧。 一刻が永遠に感じられた。 筋肉が悲鳴を上げ、神経は異物感に焼き切られそうになる。しかし、自力でそれを吐き出す術はない。吐き出そうと力めば、かえって奥へと食い込み、さらなる激痛と屈辱が彼を襲う。 彼はただ、冷たい石床の上で、脂汗と涙に塗れながら、獣のように丸まって時が過ぎるのを待つしかなかった。 カツン、カツン。 その音は、死神の足音か、あるいは救済の響きか。 朝の光が窓枠を薄く縁取る頃、扉が開かれた。軍靴の音と共に現れたシュハールは、昨夜と変わらぬ、鉄のような威厳を纏っている。 シュハールは床に横たわる無惨な姿の「獲物」を一瞥すると、壁から伸びる鎖をぐいと手繰り寄せた。 「……っ、あ……」 引きずられる衝撃で、カーツが目を開ける。 その瞳は赤く充血し、焦点は定まらない。一睡もできず、ただ恥辱の重みに耐え続けたことは、その蒼白な顔色と乱れた呼吸が何よりも雄弁に物語っていた。 「おはよう、カーツ。よく耐えたな」 シュハールは抵抗する力さえ失ったカーツの身体を、赤子でも扱うように容易く抱き上げた。そのまま寝台へと放り投げると、カーツはシーツの上で弱々しく跳ねる。 シュハールはカーツの脚を割り、一晩中彼を責め立てていた翡翠の道具を、指先で弄んだ。 「ひ……あ、っ……」 「抜いて欲しそうだな。だが、お前の身体がこれを吸い込んで離したがらないようだ」 冷徹な言葉と共に、シュハールは一気にその楔を引き抜いた。 「ああぁぁッ!!」 解放感と、急激な摩擦による痺れが同時に走り、カーツの背中が弓なりに反る。 空虚になった内側に、シュハールはすぐさま自身の指を滑り込ませた。 「……っ! あ……あ、う……ん」 カーツの口から、意志に反して甘い鳴き声が漏れた。 昨夜までは拒絶一色だった内壁が、一晩中異物を抱え込まされた結果、神経を剥き出しにされ、わずかな刺激にも過敏に反応する「淫らな器」へと作り替えられていた。 シュハールが指を曲げ、内側の柔らかな部分をなぞるたび、カーツは身悶えし、さらなる愛撫をねだるように腰を揺らしてしまう。 「どうした。指一本で、そんなに情けない声を出すようになったのか?」 「あ……違う、これは……はっ、あッ……私は……」 「嘘をつくな。お前の身体は、既に俺を乞うている。騎士の誇りなど、この熱の中に溶けて消えたのではないか?」 シュハールは指の動きを止めず、カーツの耳元に唇を寄せた。 項の柔らかな肌に、吸い付くような、しかし所有を誇示するような深い口づけを刻む。その熱い感触に、カーツの思考は真っ白に塗りつぶされた。 もはや、自分が何に絶望しているのかさえ分からなくなる。 辱められているはずなのに、王の指がもたらす熱が、この冷たい孤独を埋める唯一の救いであるかのように感じてしまう。その事実にこそ、カーツは真の恐怖を覚えた。 「今夜は……どうすればいいか、分かっているな?」 シュハールは指を抜き去ると、ぐったりと横たわるカーツの腕を戒めていた革紐を解き、傍らにあった白い布をふわりと掛けた。その仕草は、残酷な凌辱のあととは思えぬほど、優しさに満ちていた。 「……は、い……陛下……」 掠れた声で、カーツは答えた。 もはや「仕置きが怖いから」ではない。王の不興を買うことを恐れ、王に望まれることを至上の規律とする、従順な奴隷の心が芽生え始めていた。 ちょうどその時、朝食を運んできた世話係が扉を開けた。 シュハールは振り返り、トレイを持つ男を制するように手を挙げた。 「今は寝かせてやれ。薬は入れるな。その代わり、最高級の肉を用意しろ。体力を戻させねば、今夜に差し障る」 「……御意に」 シュハールは最後にもう一度、深い眠りに落ちようとするカーツの白銀の髪を愛おしそうに撫で、満足げな笑みを浮かべて部屋を後にした。 残されたカーツは、柔らかな布にくるまりながら、微かな微睡みの中で確信していた。 自分はもう、あの青い空の下へは戻れない。 この暗い部屋で、王の指を、王の熱を、自分から乞い願うようになる日が、すぐそこまで来ていることをカーツは心のどこかで予感していた。

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