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第17話 新たなる隷属の儀
ガルドラの朝は、規則正しい生活の中でカーツの身体に再び「生」を吹き込みつつあった。
与えられた漆黒の衣を脱ぎ捨て、カーツは広々とした自室の床で、かつての過酷な鍛錬をなぞるように身体を動かしていた。
「……くっ、九十八、九十九……百」
腕立て伏せを終え、荒い息をつきながら立ち上がる。
鎖がジャラリと鳴るが、今の彼にはそれを疎む余裕さえなかった。
一時は絶望と凌辱の果てに痩せ細り、騎士としての誇りとともに筋肉も削げ落ちかけていた。しかし、日に三度の栄養価の高い食事と、シュハールという強大な「主」に組み敷かれる夜が、皮肉にも彼の生存本能を呼び覚ましていた。
汗に濡れた胸板、引き締まった腹筋、そしてしなやかな力強さを取り戻しつつある四肢。
鏡に映る自分を見るたび、カーツの心は二つに引き裂かれる。
(私は……再び戦うために身体を鍛えているのか? それとも……)
高潔な騎士として、いつかこの鎖を断ち切り、エリュシオン王子を救い出すための牙を研いでいるのか。
それとも、夜ごと自分を蹂躙する帝王にとって、より質の良い、手応えのある「玩具」であり続けるために、その私物を磨き上げているのか。
自ら施す「準備」の指が、以前よりも容易く、そして滑らかに奥へと沈むようになっている事実が、後者の答えを残酷に突きつけてくる。戦士としての筋力と、シュハール専用の器としての淫らな柔軟さ。その矛盾した二つの性質が、一つの肉体の中で密やかに、しかし確実に融合しつつあった。
その夜、シュハールの訪れはいつもより早かった。
カーツは漆黒の衣を纏い、首の鎖を正して跪き、主を迎え入れた。
シュハールは無言でカーツの顎を掬い上げると、その身体を検分するように細めた瞳で眺めた。
「……身体つきが変わったな、カーツ」
その言葉に、カーツの背筋に冷たい緊張が走った。
勝手に鍛錬を行い、反逆の意志を疑われたのではないか。仕置きを覚悟して身を固くしたカーツに対し、シュハールが口にしたのは意外な言葉だった。
「良い。戦士としての輝きが戻りつつある。死に体の人形よりも、そのように生気に満ち、鍛え抜かれた肉体こそが俺の征服欲をそそる。……やはりお前は、白銀の騎士のまま俺に跪くのが一番美しい」
シュハールは満足げにカーツの胸元をなぞり、その指先で硬い筋肉の感触を愉しんだ。
咎められるどころか、その努力さえも「王を愉しませるための趣向」として飲み込まれていく。カーツは己の誇りさえもが、シュハールの掌の上で転がされている事実に、言いようのない無力感を覚えた。
だが、帝王の寵愛はそこで終わるほど底の浅いものではなかった。
「だが、ただ身体を鍛えるだけでは足りん。お前にはまだ、教えねばならぬ『作法』がある」
シュハールは椅子に深く腰を下ろすと、短く鎖を巻き取り、足の間にカーツを引き寄せた。
王の豪奢な衣装が擦れる音と、革の匂い。そして、目の前に突きつけられたのは、あまりにも剥き出しの、暴力的なまでの男性の象徴だった。
「何を呆けている、奉仕せよ。舌を使え、カーツ」
「あ……っ、陛下……それは……」
カーツの思考は真っ白に弾けた。
かつて戦場を駆けた英雄として、男たちの荒々しい熱気の中に身を置いてきた。だが、これほどまでに淫らで、かつ屈辱的な役割を強要されることなど、彼の清廉な想像力の外側にあった。
震える指先が、王の太腿に触れる。
拒絶したい。騎士としての魂がそう叫んでいる。しかし、シュハールの冷徹な視線がそれを許さない。カーツは意を決し、強張った喉を鳴らしながら、その熱を唇で受け止めた。
「……っ、ふ……うぅ……っ」
未経験ゆえの、あまりに拙い接触。
唇を寄せるだけで精一杯のカーツに対し、シュハールの反応は冷ややかだった。
「下手だな。石像にでも吸い付いているつもりか? 舌を使え。もっと深く、喉を鳴らして俺を愉しませろ」
「ん、む……っ、あ……」
カーツは涙を浮かべながら、教えられた通りに舌を這わせる。
独特の苦い匂いと、脈打つ熱。己の口腔という、最もプライベートな聖域を王の欲望で侵食されていく感覚に、心臓が潰されそうなほどの動悸が襲う。
だが、どれほど懸命に、みじめに頭を動かそうとも、シュハールを満足させるには程遠かった。
「……やはり、言葉では理解できぬようだな」
シュハールが低く笑う。その笑みには、愛おしむような慈愛と、徹底的に踏みにじろうとする嗜虐性が混在していた。
王の大きな手が、カーツの白銀の髪を容赦なく掴み上げる。
「あぐっ、う……!」
「呼吸を止めろ。これはお前への『教育』だ」
抗う間もなく、シュハールはカーツの後頭部を強く押し込み、己の欲望を最奥まで突き刺した。
「ん、ぐ……っ!! げほっ、んむ、むぅううッ!!」
無理やり喉の奥を抉られ、カーツの背中が激しく震える。
生理的な涙が溢れ、端正な顔をぐちゃぐちに濡らした。鼻から抜けるのは、王の匂いと自身の酸欠の吐息だけだ。
呼吸ができない。吐き気がせり上がる。しかし、髪を掴む手の力は緩まず、むしろ楽しむように、シュハールはカーツの口腔を執拗に蹂躙し続けた。
「苦しいか? その苦しみが、お前が俺に従属している何よりの証だ」
シュハールは苦悶に歪むカーツの表情を、愉悦に満ちた瞳で眺めていた。
普段の抱擁では決して見せない、支配者としての冷酷な愉悦。カーツという高潔な存在が、自分の一物によって咽せ返り、涙を流し、呼吸さえ奪われている。その事実が、シュハールの征服欲を狂おしいほどに満たしていた。
「ん、んんぅーーーッ!!」
何度も突き上げられ、口腔内を無惨にかき回される。
かつて全軍を指揮した勇ましい口が、今は王を満足させるためだけの穴に成り下がっている。
ようやく解放されたとき、カーツは床に両手をつき、糸を引く唾液と涙に塗れながら、激しく咳き込んだ。
「はぁっ、はぁ……っ、げほっ……あ、あぁ……」
「……酷い顔だな。だが、その顔こそがお前に相応しい」
シュハールは、床に伏して震えるカーツの顎を爪先で持ち上げた。
みじめなほどに濡れた唇、虚ろになった赤い瞳。
戦士として鍛え上げた肉体が、首に繋がれた鎖と、口元を汚す行為の残滓によって、これ以上ないほど背徳的に色づいている。
カーツは、喉の奥に残る異物感と、拭いきれない絶望に打ちひしがれていた。
身体を鍛え、戦士としての力を取り戻そうとしたその矢先に、より深い泥沼へと引きずり込まれた。
(私は……私は、どこまで堕ちていくのだ……)
自分の意志とは無関係に、王の嗜虐を待ちわびるように疼き始めた身体が、何よりも恐ろしかった。
「奉仕は奴隷の務めだ、カーツ」
シュハールは、咽せ返り、涙を流しながら床に伏せるカーツを見下ろし、呪いのような宣告を続けた。
「できなければ、相応の仕置きを課す。お前はただの捕虜ではない。俺の慈悲によって生かされている奴隷なのだ。奴隷には奴隷に相応しい『躾』が必要だ、わかるな」
絶望。
窓から見えるガルドラの活気も、部屋に置かれた戦術書も、今の彼にとってはただの皮肉な背景でしかなかった。
身体を鍛えれば鍛えるほど、その強靭な身体が「王に捧げるための最良の供物」となっていく。
高潔な騎士としての心が、淫らな奉仕を強要される苦痛によって、一層細かく、鋭く削り取られていく。
「……ッは、い……」
鎖が鳴る。
床に散らばった自身の涙を拭うことも許されず、カーツは王の足を縋るように掴み、次なる「教育」を請うしかなかった。
騎士の誇りと、底なしの調教。
その境界線が、今夜また一段と曖昧に、そして残酷に溶け崩れていった。
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