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第19話 真夏の夜の戒め

帝都ガルドラは本格的な夏の盛りを迎えていた。 石造りの宮殿は熱を孕み、窓から吹き込む風さえもが肌をねっとりと撫でるような湿り気を帯びている。かつて極寒のノルズガルドを統べていたカーツにとって、この都市の夏は、それ自体が肉体を蝕む拷問のようでもあった。 しかし、その熱さは外気によるものだけではない。 「準備」を整え、主を待つカーツの身体もまた、内側から沸騰するような熱に支配されていた。 (……慣れて、しまったのか。この辱めに) 鏡に映る己の姿に、カーツは自嘲の笑みを漏らす。 首には常に銀の鎖。だが、その漆黒の衣の下にある肉体は、騎士団長であった頃の無骨さを残しながらも、どこか陶器のような艶を帯びていた。 特訓の成果か、あれほど苦戦した「奉仕」も、今やシュハールが吐息を漏らすほどに上達していた。舌の動かし方、喉の使い方、そして主君の瞳を覗き込みながら悦ばせる術。それらはすべて、かつての彼が重んじた「忠義」が、歪んだ形で「愛欲」へと転化した結果だった。 だが、その「慣れ」が、今夜の悲劇を招く。 シュハールの寝室。重厚な空気の中で、カーツはいつものように膝の間に跪き、その熱を口に含んでいた。熟練した舌使いに、シュハールは満足げに目を細め、やがて奔流を解き放つ。 「ん……っ、ん、んむ……」 溢れる熱。カーツはそれを余さず飲み込もうとした。しかし、その量は予想を遥かに超え、喉を鳴らして必死に嚥下したものの、耐えきれなかった雫が口角からこぼれ、彼の白い胸元へと無惨に一筋の線を描いた。 静寂が部屋を支配する。 カーツは目を見開き、唇を震わせた。だが、拭うよりも先にシュハールの冷ややかな声が降ってきた。 「……こぼしたな。カーツ」 「申し訳、ございません……ッ。すぐに、すぐに清めます……!」 「不敬だ。慢心したか? 奉仕に慣れ、俺が甘くなったとでも思っているのか」 シュハールの黄金の瞳から、慈しみが消え、鋭い嗜虐の光が宿る。それは、数多の戦場を支配してきた王の瞳だった。 「……教育が必要なようだな。調子に乗った奴隷には、己の立場を分からせねばならぬ」 「あ……ぁ、陛下……お許しを……!」 懇願は聞き届けられなかった。シュハールは荒々しくカーツを寝台へ引きずると、迷いなく例の金属のリングを手に取り、カーツの前を無慈悲に封印した。 「ああッ! ぁ……あぁ……っ」 「今日はそれだけでは終わらん。お前がその卑猥な体内で、何のために生きているかを刻み込んでやろう」 シュハールは、怯えるカーツの両手を背後で革紐によって縛り上げ、さらにその視界を漆黒の布で覆い隠した。 突如として奪われた視界。暗闇の中で、カーツの五感は異常なほどに研ぎ澄まされていく。 「あ、が……っ、何……何を……」 見えない恐怖に震えるカーツの秘所に、ひんやりとした異物が触れた。 「翡翠の珠」だ。それも、一つではない。シュハールは連なった珠を、潤滑の香油さえ使わず、力任せに一つ、また一つとカーツの奥底へと沈めていく。 「ん、ぎぃッ! あぁ……っ、ふ、深い……っ、ひあぁああ!」 「すべて飲み込め。お前が吐き出したものの代わりに、これを詰めておいてやる」 連なった珠は、カーツの内壁を無理やり押し広げ、最も敏感な一点を執拗に圧迫しながら収まっていく。最後の一球が呑み込まれたとき、カーツの腹部は異物感で張り詰め、前を封じられている苦痛と相まって、もはや思考を維持することさえ困難な状況に陥った。 「そのまま朝まで、己の罪を数えながら待て」 「陛下ッ! 陛下、待ってください! 行かないで……う、くっ、苦しい……ッ!」 しかし、重厚な扉が閉まる音だけが、非情に彼の耳に届いた。 そこから始まったのは、時間という概念が消失した「地獄」だった。 視界は漆黒。両手は不自由。 前ははち切れんばかりに熱く疼いているのに、出口を塞がれて一滴の解放も許されない。そして後ろには、冷たく、それでいて異物としての確かな重みを持った珠が詰まっている。 身体を動かそうとすれば、珠が中で転がり、容赦なく「そこ」を刺激する。不意に襲いかかる甘い痺れに、カーツは何度も腰を浮かせ、そのたびに縛られた腕が軋み、激痛が走った。 (……苦しい……なぜ、どうして私はこんな……) 暑苦しい夏の夜気が、汗ばんだ肌にまとわりつく。 暗闇の中では、自分の吐息さえもが他人事のように遠く聞こえた。自分が騎士なのか、奴隷なのか、それともただの肉の塊なのか。 快楽と苦痛、そして圧倒的な孤独。 シュハールに捨てられたのではないかという恐怖が、鋭いナイフのようにカーツの胸を抉る。 「……あ……陛下……、っ、……シュハール様……ッ!」 届かぬ声を上げ続け、涙で目隠しの布が重くなる。 いつしか、あれほど屈辱だったはずのシュハールの侵略が、今の彼にとっては唯一の救いであるかのように思えていた。独りでこの暗闇に放置されることに比べれば、どれほど手酷い蹂躙であっても、主の体温を感じられる方が遥かに幸福だ。 どれほどの時間が経過しただろうか。 カチャリ、という、待ちわびた音が扉の向こうで響いた。 「……っ……ぁ」 軍靴の足音。カーツは全身の力を振り絞り、音のする方へと顔を向けた。 目隠しが、大きな手によって優しく解かれる。 眩しさに目を細めると、そこには朝の薄明かりの中で、静かに自分を見下ろすシュハールの姿があった。 「……醜く泣き喚いていたようだな。少しは反省したか」 「……あ……ぁ……っ……ひ、陛下……」 カーツの顔は、涙と汗でぐちゃぐちに濡れていた。焦点の合わない瞳で、彼は弱々しく唇を動かす。 「……申し……訳、ございません……。私が……慢心して、いました……っ。……どうか、捨てないで、ください……陛下……」 息も絶え絶えな謝罪。 シュハールは、その痛々しいほどに震える頬を大きな掌で包み込み、ゆっくりと白銀の髪を撫でた。 「……良い。お前のその絶望した顔が、俺への何よりの献上物だ」 シュハールはカーツの背後に手を回し、革紐と、前を塞いでいた器具、そして内側に連なっていた重い珠を、一気に引き抜いた。 「っ、あぁああああああッ!!」 解放の衝撃に、カーツの身体が大きく跳ね、シーツの上に崩れ落ちる。 荒い呼吸を繰り返すカーツの耳元で、シュハールが低く囁いた。 「……これほどまでになっても、まだ俺に抱いて欲しいか?」 残酷な問い。だが、カーツに迷いはなかった。 彼は震える手でシュハールの衣装を掴み、涙に濡れた瞳を上げて、熱烈に、懇願するように答えた。 「……お、願い……します。……っ、壊して……私を壊して……っ」 その言葉は、もはや騎士の言葉ではなかった。 シュハールは満足げに、勝利を確信した笑みを浮かべると、弱り切ったカーツの身体を強引に引き寄せ、真夏の夜の余韻をかき消すような、激しい情熱で彼を貫いた。 王の腕の中で、カーツは初めて真の呼吸を取り戻した。 この熱こそが、この支配こそが、今の彼にとって唯一の、生きている証だった。

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