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第20話 甘美なる帰順

帝都ガルドラに、鋭い冬の訪れを告げる風が吹き始めた。 かつてカーツが守護していた北国ノルズガルドであれば、今頃は天地の境も分からぬほどの猛吹雪に閉ざされ、吐く息さえもが瞬時に凍りつく季節だ。しかし、この強大なる帝国の中心地では、冬は厳しい寒さと同時に、収穫を終えた富と熱狂が街を彩る、どこか浮き足立った華やかさを湛えていた。 室内は魔導ヒーターによって春のような暖かさに保たれている。 カーツは、窓の外で舞い始めた初雪を眺めながら、静かに漆黒の衣を脱ぎ捨てた。 その肉体は、この数ヶ月で「完成」の域に達していた。 毎日欠かさず行っている自重鍛錬により、胸筋は以前よりも厚みを増して張り、腹筋のラインは鋭く、戦士としての精悍さは微塵も失われていない。同時に、シュハールに磨き上げられた肌は、以前の無骨な印象を脱ぎ捨て、月光を反射する白銀の甲冑のような、神々しいまでの艶を放っている。 だが、その強靭な「外殻」の内側は、もはや騎士のそれとはかけ離れたものに変質していた。 (……あの方の……陛下の帰られる時間だ……) カーツは自ら跪くと、棚から慣れた手つきで香油と「翡翠の珠」を取り出した。 もはや、それは仕置きの道具ではない。シュハールから「待っている間にこれを含んでおけ」と命じられて以来、それは彼にとって、主を待つ時間の孤独を埋める、密やかな儀式の必需品となっていた。 「……ん、……ぁっ……」 自らの指で秘所を解き、滑らかに整える。かつての自分が見れば自決を計るであろうその淫らな行為も、今のカーツにとっては「主君を最高の状態で迎えるための、騎士としての義務」のようにさえ感じられている。 一つ、二つと、冷たい翡翠の珠をその奥底へと沈めていく。異物が内壁を押し広げる圧迫感。それが、シュハールの存在を予感させ、カーツの身体を芯から熱くさせた。 準備を終え、鎖を正し、跪いて待つ。 軍靴の音が聞こえ、重厚な扉が開かれた瞬間、カーツの胸は俄かに高揚した。 シュハールに鎖を引かれると、カーツは自ら腰を高く上げ、従順な「私物」としての姿勢を主へと差し出す。 「……よく準備できているな、カーツ」 「おかえりなさいませ、……陛下……。っ、お望みの通り……中に、珠を……」 シュハールは満足げにカーツの背中をなぞり、その強靭な筋肉の躍動を愉しんだ。 その夜の奉仕は、完璧であった。 かつては拒絶に震えていた口腔での奉仕も、今やシュハールが思わず声を漏らすほどに上達している。王の太腿に手を添え、上目遣いに主君の反応を伺いながら、舌先を器用に使い分ける。喉を鳴らし、深い場所まで主を受け入れるその姿には、もはや騎士の面影はなく、ただひたすらに愛し、愛されたいと願う一個の生き物がいた。 シュハールは、その熱心な奉仕に報いるようにカーツを寝台へ押し倒した。 「……自分から珠を入れて待つのが習慣になったか。殊勝なことだ」 「あ……っ、ん、あぁ……」 仰向けにされたカーツは、羞恥に頬を染めながらも、自ら膝を立ててその脚を左右へと大きく割り開いた。シュハールの逞しい指が、震える蕾に触れ、一つ、また一つと翡翠の珠を滑らかに引き出していく。内側が空虚になる喪失感にカーツが身悶えした瞬間、珠よりも遥かに熱く巨大な王の証が最奥まで貫入した。 「あ、がぁっ! ひ……っ、あぁああ!!」 強烈な質量に、カーツの腰が跳ねる。 かつては恥じらいに拒絶していた卑猥な声も、今はシュハールを悦ばせるために、惜しみなく、高く甘く響かせる。 カーツは自ら腰を揺らめかせ、貪欲に王の熱を求めた。背中を反らし、白銀の髪を乱しながら鳴く姿は、主君にとって何よりの甘美な献上品であった。 情事のあと、息を整えるカーツを、シュハールは大きな毛布で包み込んだ。 「今夜は、外の風呂へ行くぞ。……星が綺麗だ」 連れて行かれたのは、最上階にあるシュハール専用の大浴場だった。 一歩外へ出れば、肌を刺すような冬の冷気がカーツの火照った身体を包み込む。しかし、目の前に広がる光景に、彼は思わず息を呑んだ。 天井の一部が大きく開かれ、そこからは吸い込まれるような漆黒の冬空に、鋭い輝きを放つ星々が散りばめられていた。薄く舞い落ちる粉雪が、温かな湯気と混ざり合い、幻想的な白濁の風景を作り出している。 「……綺麗、だ……」 「見惚れている暇があるなら、入れ。冷えるぞ」 シュハールに促され、二人の身体がなみなみと注がれた湯の中に沈む。 凍てつくような外の冷気と、芯まで溶かすような湯の熱さ。その極端な対比は、カーツにとってどこかシュハールその人の二面性に似ているように思えた。 湯船の中で、シュハールはカーツを自分の膝の間に座らせ、背後から抱きしめるようにして、柔らかな布で彼の身体を洗い始めた。 「陛下……そのようなことは、私が……」 「黙れ。俺が自分の持ち物を手入れしたいと言っているのだ。……遠慮するな」 シュハールの大きな掌が、カーツの肩、腕、実戦で鍛え抜かれた胸板を丁寧に撫でていく。その手つきは、先ほどの荒々しい情事とは異なり、まるで至宝を慈しむ職人のように慎重であった。 「……お前のこの身体は、いつ見ても見事だ。戦士としての力強さを保ちながら、俺の手の中でこれほどまでしなやかに、淫らに蕩ける」 シュハールの低い声が、浴室の石壁に反響して耳元で囁かれる。 「気高き魂、美しい肉体、そしてこの、俺だけを受け入れる淫らな器……。そのすべてが、お前という存在を、世界で唯一の価値あるものにしている。……心までもが、俺の色に染まっていくのが分かるぞ」 「……っ……、ぁ……」 その言葉に、カーツは遠いノルズガルドを思い出した。 雪深く、常に死と隣り合わせだった故郷の冬。かつての自分にとって、冬とは耐え忍ぶものであり、誇りを懸けて戦う季節だった。しかし、今この甘美な湯の熱さと王の寵愛の前では、あの極寒の記憶さえも、霞のように遠い前世の出来事に感じられた。 あの凍てつく大地へ戻ることは、もう二度とないだろう。 たとえ鎖が解かれたとしても、自分はこの熱から、この男の支配から逃れる術を、もはや持っていないのだ。 「……陛下……。私は、あなたの……。……あなたのものです……」 カーツは自ら後ろへ頭を預け、シュハールの肩に顔を寄せた。 湯煙の向こう、冬の星々が瞬いている。 絶望から始まった隷属は、いつしか、抗いがたい「甘美な安息」へと姿を変えていた。 (私は……この方の腕の中で、本当に「完成」してしまったのだ……) シュハールは、愛おしげにカーツの首筋に誓いのような口づけを落とした。 降りしきる雪も、厳しい冬の寒さも、この銀色の籠の中の二人を冷やすことはできない。 完成された奴隷と、彼を愛でる帝王。 二人の絆は、冬の夜空に輝く一等星よりも強く、深く、永遠に続く闇の中に刻み込まれていった。

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