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しゅがー☆くれーぷす
法定速度を守りつつ、俺は急ぎ目で車を走らせた。
車なんて興味ないけど、いつか暖くんが道端で困っていることがあるかもしれない。
マネージャーさんが急病とか、財布を忘れてタクシーに乗れないとか。
そんな時、何食わぬ顔で俺は声をかけるんだ。
『なにかお困りですか?』
『……実は……スタジオまであと10分で行かなきゃいけないのに……どうしよう』
『それは大変だ! さぁ! この車に乗って! 送りましょう!』
『わあ! カッコイイ! 外車だぁ! お兄さんが乗りこなすと更にカッコイイ!』
『いえいえ。ドライブが趣味なただの中年ですよ』
『きゃー! 素敵! お兄さん、お名前は!?』
「寒川さむかわ 凍とうです! 37歳独身、皮膚科医!! 貯金は3000万円ほど! 目黒区にマンションも持っています!!」
……やばい。妄想の暖くんに対して返事していた。今週は忙しかったからな。
早く帰って暖くんチャージしないと、捕まる。
暖くんのこと考えすぎて、普通に歩きながら勃起して捕まりかねない。
車を15分ほど走らせ、昨年購入した新築のタワーマンションのエントランスを潜る。
もちろんアクリルスタンドとカードケースは、丁寧にハンカチで包み、ブランド物の革素材のポーチにしまい込んだ。
「ただいま〜」
32階にある無駄に広い我が城は、3LDKだ。
富裕層向けのファミリータイプマンションである。
今まで手頃な賃貸の1LDKに住んでいたが、暖くんグッズをしまう場所がなくなったのと、暖くんに見合う男になりたくて思い切って購入を決断したのだ。
外車だってマンションだって、売れっ子芸能人である暖くんなら自分で買えちゃうかもだけど……。
そうだとしても、ただの優しい真面目なαじゃなくて、好きな人に素敵だと思われたいのだ。
単純にそれだけ。
暖くんに出会ってから、俺はただ「好きだ」という感情だけで突き動かされ生きている。
時刻は21時。俺は手短にシャワーを済ませ、暖くんが所属するアイドルグループ《Sugar☆crepes》がコラボした、クレープとアイスクリームが描かれたパジャマに腕を通し、冷蔵庫を開けた。
「21時15分から、暖くんのメンバーシップ配信〜♡」
冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、作り置きしておいたロールキャベツを電子レンジに入れた。
その間にビールを飲みながら、スマートフォンで暖くんのインスタをチェック。
「あー、来月から始まるBLドラマの宣伝してる」
最近の芸能界あるあるなのか、BLドラマが若手俳優やアイドルの登竜門になっている気がする。
俺はゲイなので、暖くんが女性との恋愛ドラマに出るよりかは嬉しい。でも、ちょっと複雑なんだよな。
暖くんはβ男性だとインタビューで公表していた。第二性について公開か非公開かは個人の判断に任されているが、Ωでアイドルグループに所属するのは中々難しい気がするし、本当だろう。
芸能界はαが多いだろうし……。
あー、でも、もし暖くんがΩだったら……。
『……凍さん……お洋服くださいぃ』
『何に使うのカナ?』
『もー! バカ! 発情期に巣作りするんだからぁ!』
暖くんはモコモコのパジャマに身を包み、短パンに合わせたモコモコのソックスを履いて、恥ずかしそうにこちらを見つめている。
「あああああああ!! 孕ませたい!!!!」
♩シャララララン
最新の電子レンジはオシャレな音を奏でて、俺の晩御飯が温まったことを知らせてくれた。
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