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干物男

芸能界に入って、早6年。 アイドルグループの事務所に所属し、個人の活動に勤しんでいたが、近年はソロアイドルが売れる傾向にはない。 事務所の方針で《Sugar☆crepes》のメンバーに選出され、活動が始まり早3年。 元々モンスターアイドルグループを輩出している事務所からのデビューだったので、ある程度売れることは予測されていたが、メンバーの平均年齢が若く、ふんわりとした見た目とは裏腹にダンスに力を入れていた。 デビュー曲《恋恋恋♡〜カスタムはホイップめちゃ増〜》 知力を疑うタイトルだったが、世の中の優秀な大人が作り上げたマーケティング力で瞬く間に日本中に広がり、気がついたらアジア圏内でまあまあ人気のあるグループへと地位を確立していた。 「みんな来てくれてありがとね〜♡ あ、ドラマ来週からだから絶対観てね! 結構頑張ってるから!!」 新しく始まるドラマの宣伝のために、事務所に指示された通りインスタライブを行っていた。 時刻は22時。 (ったく、インスタライブって疲れんだよな……) ずっと見られてるからニコニコしてなきゃならねーし。コメント拾うのだるいし。 ドラマの裏話? 本当の裏話は話せねーから、ファンに出すのは「表話」なんだよ。公式情報。 ファンのことは嫌いじゃない。みんなの声援は本当に元気になるし、ありがたい。 たまに面倒なやつもいるけど、それだけ人気がある証拠だ。 芸能界で一番怖いのは、注目されないこと。「無」になることだからだ。 「暖くんお疲れ様。はい、これ着替え」 事務所が管理するマンションの一室に、マネージャーの佐竹さんがノックと同時に入ってくる。 「あんがとー! はー! マジ疲れた! もうやりたくない、インスタライブ!」 「まあまあ。そんなこと言わずにさ。ファンからしたらプライベートが覗ける感じは堪らないんだよ」 「プライベートね……自宅って設定だけど、結局事務所だし」 俺は、グループがコラボして販売しているパジャマブランドのフワフワホワホワのパジャマを、その場でポイポイと脱ぎ捨てた。 「ちょっと〜! 暖、だらしな〜い」 ケラケラと笑いながらピンク色の髪の青年が部屋に入ってきた。こいつは、同じSugar☆crepesに所属する二つ上の竹村温たけむら おん。年上だが、同期なのでタメ口だ。 「いーのいーの。あんな可愛いパジャマより、俺はこのクッタクタのスウェットが落ち着くし、安眠できんだよ。はよこの格好で本当の部屋に戻ってゲームしてー。明日はオフだし、風呂も入らずずーっとこの格好でいてやる!」 三ヶ月ぶりのオフに思いを馳せて、俺はギュッと自分自身を抱きしめた。 「まあ、わからないでもないけどね。暖くん。事務所としては、大人しくお家でゴロゴロしてくれたら申し分ないし。しかしまあ、暖くんの干物男っぷりはファンが見たらびっくりするだろうなあ」 「本当〜。一番人気のキラキラ男子の暖くんが休日は風呂キャンなんて、ヤダ〜臭〜い」 「うっせー。いーんだよ、俺が良けりゃ。臭くても酸っぱくてもダラダラしたいんじゃ」 「あ、そういえば……暖。病院! ほら、これ」 温は俺に一枚の名刺を差し出した。 名刺にはシンプルな文字で【寒川美容クリニック】と書かれていた。 「ここ、恵比寿の美容皮膚科なんだけどちゃんとしてるよ。芸能人は休日でも相談すれば診てくれるし。でも、暖、どこを見てほしいの? 肌綺麗じゃん」 「んーまあ、ニキビとか。俺、Ω(オメガ)だからホルモンの周期とかで肌荒れすんの」 「まーそっか。俺はβ(ベータ)男子だからわからんけど、大変だね。もし予約するなら名刺にあるQRコードね。これ芸能専用の予約サイトだから公開禁止だよ」 温の説明をへいへいと適当に聞き流して、俺は名刺をスウェットのポケットに入れた。

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