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問診
天使から発せられた天国のメロディが、寒川美容皮膚科に鳴り響いた。
「花宮暖です」
どうしよう…本当に…本当にご本人来ちゃったよ…おいおい。こんな展開ありか?
暖くんじゃん…生身の暖くんじゃん…
か、可愛い…お肌ツヤツヤだし…毛穴ないし…
てか細~~!!芸能人ってテレビで見るより痩せてるって聞いたけど、本当だったんだ…
暖くん華奢すぎるよ…でもガリガリって訳でもないし。わあ…まつ毛長…
「…先生!?」
看護師の強めの声で俺はまた我に返った。
「す、すみません…えーと。皮膚科医の寒川です。犬のマークの診察室へお願いします」
「…いぬ」
暖くんは可愛いトイプードルのステッカーが貼ってある診察室をキョトンと見つめている。
「うちは子供の患者様も多いので、先生が診察室の名前は全部動物にしたんですよ」
「なるほど!いいですね!」
暖くんと看護師さんが和気あいあいと話している隙に俺は、いそいそと裏から犬の診察室に先回りした。
「担当します、一般皮膚科医の寒川と申します」
俺は平然を保っているように見せるため、表情筋と声色に全神経を集中させた。
こんなに緊張したのは医師免許取得の試験以来かもしれない…
「あ、これ。問診票です」
暖くんが俺にタブレットを渡すと、ぺこりとお辞儀をした。
はぁ…爪まで形がいいな。可愛い。
「…花宮さん。20歳。本名なんですね。深い意味はありませんし、プライバシー遵守には配慮していますのでご安心ください。第2次性はβですね」
「ありがとうございます。はい。βです。あ、寒川先生…下の名前は?」
んんんーー!?
し、したのなまえぇぇ!!??
な、なになに。聞いてどうするの!?
名前聞いて、姓名判断占いとかで相性診断するの!?
それで2人の未来の運気を見ちゃうわけ!?
そ、そこまでは俺もやってなかったよ暖くん!!
そうだよね。姓名判断の相性が悪かったら、運命変わっちゃうもん。
ごめんね…あぁ、最悪だ。
「…寒川凍とうです。何かありましたか?」
「さむかわ…とう…」
暖くんは俺の名前をぽつりと呟くと一瞬悩んだような顔色になったが、一瞬で元の顔に戻した。
「いえ、なんでも!ところで先生。今日診察していただきたいのは…」
「はい、どのような内容でしょうか?肌荒れとか…で…」
俺が問診票に目を通し始めた瞬間、視界にはパサりと服が落ちるのが見えた。
ゆっくりと目の前の暖くんに視点を合わせる。
「先生…この、背中の火傷。治せませんか?」
目の前には、華奢な背中に描かれた、爛れて肌から盛り上がっているようなケロイド状の火傷の跡が広がっていた。
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