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プロポーズ

「すみません、こんな素敵なお店予約していただいて……個室、助かります」 「いえ、患者さんのプライバシーを守るのも医者の勤めですから」 2週間後の平日の夜20時、都内某所にある紹介制のカジュアルフレンチレストランで俺は……暖くんとデートをしていた。 いや、診察! これは、長い治療になるだろうから治療に対しての説明、およびコミュニケーションを取る会なだけだ。落ち着け俺。落ち着け。 俺はエリートαで、患者さんのために誠心誠意心を込めて働く医師だ。 彼は確かに、Sugar☆crepes(シュガークレープ)の花宮暖。 メンバーカラーはイエロー。キャッチコピーは「みんなのおかえりワンコ」性別は男のβ。 優しい眼差しとフワフワの金髪がトレードマークの「国民のオフィシャルスイートブラザー」……ってだけだ。 だから、大丈夫。動じることはない。暖くんだってただの人間だ。ちょっと可愛すぎるだけの、人間。 「僕、あんまり分からなくって。大人はこういう店でご飯食べるんですね。緊張するなぁ」 「いえいえ、普段は全然来ませんよ。仕事の会食とか、信用できる友人と込み入った話がある時にたまに利用してます。花宮さん、苦手なものありますか? お酒は?」 「えーっと、レバーと生トマトが苦手です。お酒は……ちょっと緊張していますし、少しだけいただいていいですか?」 暖くんはコテンと首を傾げて、えへへと無邪気に微笑んだ。 か、かわてぃ……。かわてぃ……。 へ? 何今の「コテン」って動作。あざとすぎる。計算? 計画? それはワザと? 計画なら、ご利用は計画的にできないよ。85億年分割でずっとリピートしてくれないかな。 はぁ……個室だからかな。暖くんのつけている香水がいい匂いすぎて、部屋中に充満してる。 あー、やばい。普通に勃起しそう。いや、普段にって……この状況は普通じゃないな。異常に勃起しそうか? 緊急性勃起か? 「お客様? あの、お客様?」 「は! はい! 寒川です!」 「あ、寒川様。いつもご贔屓にありがとうございます。ご注文お伺いいたします」 やば……またトリップしてた。暖くんが可愛すぎて暖くんと会話しながらトリップしてた。 「失礼しました。では、シャンパーニュを乾杯用に。あとは適当に5品くらいでコースを組んでいただけますか? 内臓系と生トマトは無しで。デセールは……花宮さんのお腹に余裕があったらにしましょうか」 「わ、ありがとうございます。食べる気満々ではいますけど!」 暖くんは俺が店員さんと話す姿をじぃっと見つめている。かっこいい大人って思われてるかな。トリップしがちだし、キモいって思われたらどうしよう。まあ……それはそれでご褒美か。 「食欲があるのは素晴らしいことです。食は全てに繋がってますから。ここの食材は全てオーガニックでグルテンフリーなので、体に負荷をかけないご馳走が食べられますよ」 「すごーい! 先生……肌つやつやですもんね。食べ物に気を使ってるからなんですねぇ」 「いやいや、面倒な時はカップラーメンとかファストフードも食べますよ。酒もたまにはたくさん飲みますし。バランスが大事ですかね。ストレス溜めないことは意識してます」 「なぁるほど〜〜。俺、ついついお菓子で済ませたり、食べないで寝ちゃったりしちゃうんですよぉ」 んえーー!! なら毎日俺がねんねしてる暖くんを起こして、小鳥に餌を与えるように食べさせたい……。栄養満点なご飯と俺の愛を……ちょっとずつちょっとずつあーんしたい。 「まだ若いから大丈夫でしょうが、週1回でも意識して自分を大切にしてあげてくださいね」 暖くんが「はい!」と返事するとシャンパーニュと前菜が運ばれてきたので、二人で乾杯をして口をつける。 「花宮さん。私は酒は強い方です。バースはαなので……あまり酔いません。ですが、大切な話なので先に治療について話していきますね」 「やっぱり!! 寒川先生はαなんですね!?」 個室といえど、住居ではないので静かな店内に暖くんの興奮した声が響き渡った。 「あ! すみません……バースの話をこんな大声でするなんて……失礼ですね」 「いえ、私が申告したので。花宮さんはβと伺ったので不要かと思いましたが……信頼関係を築くにあたり、私だけ無申告なのが気になりまして」 「先生……誠実なんですね……」 きゅるっきゅるのおめめが俺をじーっと見つめてくる。誠実なのは暖くんだよ……いくらこれから火傷を治療する担当医だからって。労いの言葉が優しすぎる。 「……Ω(オメガ)だったら……治療には……何か関係あったんですか?」 「そうですね……ないと思いますが、ヒートの時期なんかは体温が上がるので、前後のレーザー治療や飲み薬には気をつけたいですね。ですが、日本でΩの方ってかなり少なくなっているので、実際には研修医時代にしかお会いしたことないんです」 「……研修医時代……それは、今から12年くらい前ですか」 「そうですね、今37歳なんで。もう12年も前かあ……」 俺は研修医時代にだけ、Ωの患者に会ったことがある。ましてや日本に100人いないと言われている男性のΩだ。彼は今どうしているだろうか……。無事大人になって、番を見つけられただろうか。 「先生は、Ωについてどう思いますか?」 「そうですね……きっと本人は苦しいことがたくさんあって、悩みも多いと思います。ですが、Ωだからどうっていうのはないです。同じ人間ですから。大変なことはバース関係なく助け合えたらいいですよね」 俺は、人間の生態や医療の話については、相手が暖くんであっても冷静になれるらしい。自分もαである以上、悩みはそれなりにある。贅沢な悩みなのかもしれないが。 俺の言葉を聞いて、暖くんは何かを決心したようにギュッと手を固く握った。そして、大きく息を吸い込んで声を発した。 「寒川先生!! 好きです!! 愛しています!! 結婚してください!!!!」

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