12 / 22
土下座
今俺は、自宅で盛大に土下座をしている。
大好きな推しの等身大パネルの前で、床に頭をつけている。
• 寒川 凍:37歳
• 身長:188cm
• 性別:男性α
• 職業:皮膚科医
• 好きな食べ物:天ざる
• 好きな人:花宮 暖
• 趣味:花宮 暖
• 初恋:花宮 暖
1時間前まで俺は、都内の隠れ家フレンチレストランで推しであるSugar☆crepesシュガークレープスの花宮暖くんと食事をしていた。
これは、αだからといって傲慢さを持たずに真面目に勉強して、真面目に働いてきたしがないゲイ男性へ、神様からのギフトだと思った。
俺の毎日は暖くんで始まって暖くんで終わる。そんな幸せな日々を与えてくれた彼は、医師として俺を選んでくれたのだ。
気持ちに寄り添いたかった。虐待で負った火傷の痕の治療。きっと心にも深い傷があるはずだ。
なのに…なのに…俺は…。
暖くんはきっと場を和ませるために、俺にプロポーズというお茶目さを見せてくれたんだろう。
俺は脳内処理がしきれず、その場で大声をあげて逃げて帰ってきてしまった。その時の俺の台詞は…
『解釈違いです!!!!!!!』
もちろん混乱しながらも入り口で、お店のスタッフにクレジットカードを預けてきた。暖くんに恥をかかせてしまったけれど、お金を払わせるわけにはいかない。
「はぁ…どうしよう…どうしよう…」
間違いだったんだ。調子に乗って食事なんかしようとしたから…生身の暖くんに会おうとしたから…。
バチが当たったんだ。
こうしてはいられない…。とにかく暖くんに謝罪しなきゃ。うぅ。目から涙が出てきた。泣くなんて、Sugar☆crepesライブツアー最終日の挨拶以来だよ…。
俺は涙と嗚咽を漏らしながら、スマートフォンをポケットから取り出した。
パスワードを解除して、スマートフォンの灯りがついた瞬間、目の前の光景に吐きそうになった。
• 着信:35件(花宮 暖)
• LINE:50件(花宮 暖)
だだだだだだだんんんくんんん!!??
ま、まさかこのキモヲタに気を使って連絡をくれたのか!? 俺が奇声を上げて急に帰ったから、体調不良だと思ったのか!?
どこまで優しいんだ…エンジェル暖くん。この薄汚い心の持ち主に、こんなにマメに連絡をくれるなんて。
いや、もしかしたら怒り狂った内容かもしれない。貴重なプライベート時間を割いて、治療の話を聞きに来てくれたのに…。
はぁ、憂鬱だ。
もう俺は暖くんを推す資格なんてないキモヲタだ。幸せだったな、毎日。ありがとう…暖くん…来世はもっとまともな人間に生まれるから…また推させてね。
俺は深呼吸をして、LINEのアイコンをおそるおそるタップした。
ゆっくりと暖くんとのトークルームをタップすると、そこには同じ内容の文章が連なっていた。
【寒川先生。結婚してください。】
ともだちにシェアしよう!

