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起床

目が覚めると見慣れない真っ白な風景が広がっていた。 俺は…どうしたんだっけ…仕事は? 朝早めに出勤して、涼に暖くんの治療を託したいとお願いしていて。 そう、その後また地上に降り立ったエンジェルがやって来て…何故か俺に向かって微笑んで抱きついてくれたんだ。 その時、彼から感じた体温と首筋からふわりと感じた香りが本当に素晴らしくて。 あんないい匂い嗅いだことなかった。 俺は無意識のうちに、肺いっぱいに吸い込んだ。 で… 「死んだのか」 「兄さん、死ぬなら持ってるマンションと車俺に譲ってからにして」 見慣れた顔が、ぬっと俺の顔を覗き込んだ。 俺の数々の失態っぷりを見ても涼の温度感は変わらなくて助かるな。本当にできた弟だ。女関係以外は。 「…すまん…涼」 「本当だよー、あ、大丈夫?起き上がれる?」 俺はゆっくりと身体を起こした。身体がバキバキに固まっていたからか、地味に痛い。 倒れた時にぶつけたのだろうか?頭も痛い。 部屋に掛かっている時計を見ると、夜の19時を回っていた。 「暖くんに怪我はなかっただろうか」 「大丈夫、兄さんは軽い脳震盪だって。あと疲労と過度な心身ストレスじゃないかって」 腕には点滴の針が刺されている。 確かに…ここ2週間、よく眠れていなかった。 暖くんの役に立ちたい気持ちもあったが、何より…必要以上に動揺していたのは事実。 俺が後ろに倒れていっただけだから大丈夫だとは思うが、アイドルは身体が資本だ。そしてまた彼に迷惑をかけてしまった。 「この度は、弊社タレントがご迷惑をおかけしまして…申し訳ございません!!」 部屋の隅にいた小柄な男性が、俺が起き上がったのを目にするといそいそと申し訳なさそうに近づいてきた。 「佐竹さん。何度も謝罪いただいてますし。兄も無事ですからお気になさらずに」 「いえ、寒川先生には直接謝罪できておりません。本当に申し訳ございませんでした」 佐竹という男は、暖くんのマネージャーらしく今回の一連の経緯について把握していた。 小柄で、丸メガネをかけておりいかにも裏方という雰囲気を醸し出した男だ。 メガネと前髪で顔はよく見えないが、声からして若いのだろう。震える手で、俺に名刺を渡してきた。 「こちらこそ、花宮さんのお話をきちんと伺わず…逃げてしまいまして申し訳ありません」 「とんでもないです。暖は一体何を考えているのか…!アイドルだからってこんな無礼な行動は許されません」 「…いえ、私はいいんです。ただ、彼は疲労やストレスで…錯乱して私に結婚を求めてきたのでしょうか」 「たしかに!それ重要だわ!いくら凍兄さんがイケメン優秀α医師だとしても、唐突すぎますよね。最近の子は年上にグイグイ行くのが流行ってるんですか?あ、グイグイって死語…?」 涼はいかにも俺を心配している声色をしているが、俺にはわかる。楽しんでいるのだ。 口角は上がっているし、瞳はキラキラと輝いて鼻息が荒い。 「それが…本人に話を聞いたのですが…あ、もちろんキツく叱りましたよ!この後きちんと謝罪させます。」 佐竹さんがまたペコペコと謝り始めたのでなかなか話が進まない。気持ちは痛いほどわかるが。 「…一目惚れしたから、結婚したいと。ただそれしか言わないんです」 「ほう、マジモンの一目惚れ!でもマジモンのヤバい人だね!?」 涼は鼻息を荒くさせて何故かガッツポーズをしている。 「こら!涼やめろ!花宮さんはヤバいやつなんかじゃない!」 いくら涼であっても暖くんを下げる発言は許せない。涼だって朝、暖くんを生で見たはずだ。 可愛すぎて、ノンケな涼だって惚れてしまったかもしれない。 「…私が言うのもなんですが、暖は普段本当に良識があるタレントでして。調子に乗った発言もしませんし、飲みに行くのもメンバーやスタッフのみです。オンオフの差は激しいですが、ファンの事も大切にしています。」 うんうん。そうなのよ…暖は裏表がなくて、弱冠20歳にして仕事に対して真面目なのだ。 「だから、今回が初めてなんです。理由も言わない、頑なに結婚したいとばかりで」 「…ということは…」 脳震盪を起こしたばかりでキャパオーバーな脳みそをフル回転させて俺は考える。 「暖くんは…暖くんは…!本当に俺と結婚したいと言うことですか!?」 振り絞った声は震えていて、身体中の血液が温度を帯びてグツグツと煮え上がっていくのがわかる。 「ちょ!涼兄さん!鼻血!!」 ぽたぽたと、沸騰した温かい液体が鼻から流れ落ちていくのを感じた。

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