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お返事

「凍兄さん…本当にどうしちゃったんだよ。CTでは何もなかったみたいだけど、もう1回診てもらうか」 涼は俺の鼻血を拭きながら、普段と様子が違う俺の様子に狼狽えている。 それもそうだ…俺は幼少期から我ながら物腰低く優しい男だった。 特に学校も勉強も、友人関係も仕事も恵まれてきた。セクシャリティは非公開だが、男性のα、β、どちらとも付き合ったことがある。 Ωの男性は少ないからか、会った事があるのは研修医時代に出会った子供のみだった。そのため、交際をしたことはないが男性であれば恋愛対象だ。 今まで燃えるような恋をしたことはなかったが、それなりに幸せな日々も、胸が締め付けられるような悲しい別れも経験した。 ただ…涼が言う通り、どうかするほど一人の男に狂ったのは暖くんが初めてなのだ。 本人目の前にして逃げたり、倒れてしまう程だ。 「すまない。疲れが溜まっているだけだ。……佐竹さん、花宮さんは今は何を?」 「すみません…ここにいさせるべきで謝罪をすぐにと思ったのですが、寒川先生に異常がないとわかったのでドラマの現場に行かせています」 「あぁ、良かった」 涼は佐竹さんを冷ややかな目で見て不服そうだが、俺のせいで仕事に穴を開けるのは俺が一番辛い。心底ホッとした。 「あ、暖から電話が」 佐竹さんはペコペコお辞儀をして、スマートフォンを取り出すと少し離れた場所でコソコソ話し始めた。 「…ったく。人を怪我させたんだからずっと付いてるのが常識だろ?芸能人様は特別扱いですね、本当に」 「その特別枠をお前が設けて儲かってるんだろ、美容皮膚科は」 俺は涼をギラリと睨みつけると、涼はぺろっと舌を出し白い歯を輝かせながらニコニコと笑った。 「まあ、これからきっと謝罪に来るだろうけど…そういや兄さん、男性は恋愛対象じゃないの?ノンケでもΩだったら引かれちゃうってのは聞いたことあるけど…あ、彼はβか」 ギクーーーー!! 俺はビクッと肩を震わせて涼から視線を外すために、壁にかかっているカレンダーに写る猫を見つめた。今ここで自分のセクシャリティを公表するのは無理だ。心の準備が足らない。 「…うーん…。どうだろうか」 「花宮さん可愛いよな〜兄さんにゾッコンなら、めんどくさいしちょっかい出さないけど…あんだけ可愛いなら俺も、恋愛対象になっちゃうかも〜」 涼はスマートフォンで花宮暖と検索し、画像を見ては拡大している。 俺の恋愛対象は男だ。ましてや暖くん激推しオッサンなんだから、暖くんは恋愛対象に決まってるだろ…!! ん??恋愛対象…?? あれ…あれれ… 暖くんが…本当の…現実世界での… 恋愛対象???? 初めて見る外国語のように、頭の中で恋愛対象という四文字がバラバラと四方八方に踊っている。 確かに、暖くんのことは大好きだ。彼を見ているだけで愛と勇気が身体から湧いてくる。 最低だが、愛が沸き上がりすぎて妄想上で暖くんを何度もめちゃくちゃにした。 しかし…いざ現実の暖くんと俺が付き合うなんてヲタとしておこがましいし、全くもって想像ができない。 「…性別がどうとは俺は意識しない。素敵な人だったら好きになると思う。…ただ、花宮さんは…患者さんだしね」 俺は、冷静を取り戻せたのかいつもの落ち着いた口調で涼に説明をした。 鼻には血だらけのティッシュが詰まってるけど。 「え!?あ!こら!暖!」 佐竹さんがスマートフォンに向かって怒り狂っている。怒り終わったのか、またペコペコと頭を下げながらベッドに近づいてきた。 「…すみません、今から…」 コンコンッ♫ 佐竹さんが口を開いた瞬間、ノックをする音が聞こえた。その音はリズミカルなノック音で、ドアを叩いた人は浮き足立っているのだろうと予測できた。 「寒川先生〜〜!!!!」 ドアが開いた瞬間、金髪のエンジェルが潤みをふんだんに含んだ目を輝かせながら、ベッドに向かって猛突進してきた。 途中器用にスニーカーを脱ぎ捨て、軽くジャンプして俺にぎゅっと抱きついた。 「……!!だ、暖くん…!!」 「わ、下の名前で呼んでくれるの?先生!」 暖くんは首に手を回し、ベッドに乗り上げすりすりと頭を俺の胸元に押し付けている。 あぁ…ガッテム。 …神よ…。 命尽きるまで、真面目に働くことを誓います…。 「こら!暖!離れなさい!!」 佐竹さんは一気に顔を真っ青にして、俺からエンジェルを引き剥がそうと、エンジェルの服を引っ張るがびくともしない。 「あはははは!花宮さん…やっぱり本気なんだ〜!」 涼は笑いながら、部屋内にある近くのソファにドカりと腰を下ろした。そして、もう興味がなくなったのかスマートフォンを高速フリックで操作している。 「本気に決まってます!ねえ、先生。結婚しましょ?」 「……っ!!」 暖くんはすりすりを終了させて、首に手を回したまま首を傾けニコッと子供のように無邪気に笑った。 「…花宮さん…私は花宮さんの担当医ですから…っ」 やばい。何も考えられない。 目の前にいるエンジェルから香る匂いで脳天ぶち抜かれそうだ。勃起しそう。いや、する…まずい。 「関係ありません!好きです!」 「こら!暖!いいげんにしてくれ!寒川先生困ってるだろ!!」 「あ、困ってなどは……!!」 困っている。困ってなどいる。 完全に勃起した。 暖くんは、俺の硬くなった分身に気がついたのかニヤリと口角を上げると、わざとらしくグリグリとお尻を押し当ててきた。 「あうっ」 「じゃあ、せめて!結婚前提で付き合いましょ!?」 「オツキアイ……っ…オツキアイ…」 目の前にいる暖くんの体温と吐息が、ダイレクトに身体に染み渡る。 あぁ…最高… 「付き合わないなら…明日から仕事行きません!事務所も辞めます!!」 暖くんが頬をぷくっと膨らませ、佐竹さんを睨みつけている。 佐竹さんは暖くんからの発言を聞いた瞬間、また真っ青になった。 「何を言うか!暖!!寒川先生は嫌がってらっしゃる!!自分がダラダラしたいからって寒川先生を巻き込むな!!第一、アイドルなんだから、恋人を作るなんて認めないぞ!!」 「違う!!俺は寒川先生と結婚したいだけ!!たしかにSugar☆Crepesを辞めて毎日ダラダラしたいけどそんなに無責任な男じゃない!!先生との交際を認めないなら、まじでSugar☆Crepes辞めてやるからな!!」 佐竹さんとの言い合いがヒートアップしたのか、暖くんはグイッと力を入れて俺の分身にまた尻を押し付けてきた。 あぁ…もっと… ん? や、辞める!? 暖くんがSugar☆Crepesを!!?? Sugar☆Crepesを辞めるなんて、地球が滅亡するくらいあってはならない!! 地球が滅亡しなくても俺が滅亡する!! 「だ、だめだ!!Sugar☆Crepesは辞めないでくれ!!」 「辞める!!」 「え!!辞めないでくれ!!頼む!!」 「じゃあ、結婚を前提に付き合ってください!!」 「勿論!!」 俺は無我夢中で暖くんの肩を掴み、気がついたら交際の了承をしていた。 何だかよく分からないが、暖くんはSugar☆Crepesを辞めてはならない。 ♫ピコン ソファから涼がスマートフォンを横に持ち直し、ニヤニヤと笑っている。 「録画完了。あ、花宮さん。兄さんをよろしくね」 俺に17歳年下の彼氏ができた瞬間だった。

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