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弱点

「だだだだだだだめだ!!!!」 俺は勢いよく起き上がり、暖くんの腕を掴み、固く立ち上がった自身から無理やり引き剥がした。 「むっ!なんで!?」 「だって!こんな性処理みたいな事を…!!」 「ひどい!凍さん!僕がしたくてしてるだけです!好きな人が興奮してるなら触りたいです!」 暖くんは口をムッとへの字に曲げて下唇を突き出している。さすがアイドル、喜怒哀楽の表情管理が完璧だ。 「か、可愛い…」 「えへ?じゃあ今度は口で」 暖くんは口をまあるく開けて俺の下半身に顔を近づける。 「だめだめだめだめ!!!!」 俺は勢いよくシーツを上げて、下半身を強制的にしまった。 「だめだよ…暖くん。昨日あんなことしといてなんだけど…いくら恋人(仮)みたいな感じだとしても、17歳も上のおじさんにこんな事したらだめだ」 「(仮)なんですか!?ひどい!あと年齢は関係ないです。僕は2ヶ月前に成人しましたし凍さんと結婚も出来る年齢です!!」 そうそう、2ヶ月前暖くんは成人したんだよなぁ。俺もケーキ買ってアクスタとぬい並べて撮影したよ。 暖くん専用垢に載せて、他のファンと交流してさ…その夜は妙に清らかな気分だったなぁ。 暖くんを産んでくれたお母さん、そのお母さんを産んでくれたお母さん…その旦那さん…暖くんのおじい様。 皆でこんないい子に育ててくれて…ありがとう… あぁ、なんか泣けてきた。 「ちょっ!?凍さん!なんで泣いてるの!?」 俺の頬にツーと流れ落ちる涙を暖くんが、クタクタのスウェットの袖口で拭いてくれる。 「ご、ごめん…。俺、最近情緒が変なんだ」 最近だけではない、暖くんを推し始めてからずっと情緒不安定だ。 「と、とにかく!いやらしいことはさ、こんな最初からしたらだめだよ!?自分を大切にしなきゃ!」 「αの性欲は凄いって聞きました。僕と暮らしてて抑えられるんですか?」 「…大丈夫。昨日ラット状態になってしまったのは、最近睡眠も浅かったから。念の為に追加の抑制剤を飲むよ。暖くんはβだし、俺さえ欲求をコントロールすれば昨日みたいな事にはならない」 俺の説明を聞いた暖くんの顔からは明るさが消えた。柔らかな蛍光灯のスイッチがオフになったように。 患者との性トラブルを防ぐために公表する医師も多いが、俺は公表していない。隠すつもりもないが、αと言うだけで妬まれたりハニートラップを仕組まれたりもあるので、対策の一環でもある。 俺は定期検診で抑制剤を打っているし、基本的にはΩのフェロモンには反応しない。昨日は体調不良が相まったのだろう。恐らく暖くんの香水や体臭がΩフェロモンと勘違いしてしまったに違いない。 「医者の7割はαだって言われてますよね。凍さんは見た目だけでαってわかります。背丈や顔立ちがα中のαですし、性欲が強いなら僕は何されたって」 「そんな事言ったらだめだよ。暖くん…それに最近は、βの医者も多いよ。αっぽいって、見た目だけで中身は俺は…」 「ドM?」 暖くんの目には再び暖かな光が宿り、口角がぐっと上がれば可愛い口から片方だけの八重歯が見えた。 「……っ」 そうだ、認めたくはないが俺は…暖くんに出会ったあの日から完璧に暖くんの下僕だ。 挑発的な目は俺の虐げられたいという欲望に火をつけた。 「ふふっ。やっぱり。いいんですよ?αがMっ気あったらいけないなんて法律はないです」 「だけど…αは男らしくて、強いイメージがある。俺の父や弟もαだが、2人とも優しくてしっかりしているが、気が強いし口論で勝ったことないんだ…」 ぽつりと、本音を漏らしてしまった。 優しくフォローしてくれたけど、やっぱり気持ち悪いよなぁ。Mなαなんて。 「気持ち悪くなんてあるわけないです。僕は、αだから凍さんを好きになったわけじゃない。虐められるのが好きなら僕頑張りますっ」 暖くんは俺の手をぎゅっと握ると、2000パーセントの笑顔を俺に向けてくれた。 が、頑張るって何を!? 「ととととととにかく!!まずは、普通に!!いやらしいことは抜きで交流しよう!!」 俺はまた脳内であんな事やこんなことを繰り広げそうだったので、フルフルと勢いよく首を振り煩悩を打ち消した。 もう、滝行とか行くべきかもしれない。 「じゃあ、お家デートですね!?」 暖くんも、多少納得したのか頭をこくこくと振り頷いた。そして、広々としたベッドの上で立ち上がると腕を組んで仁王立ちをした。 清潔に掃除されたフローリングの上にポツンと投げ捨てられた、ボクサーパンツを拾ってシーツの中で下着を履く。 良かった、息子は静かになってくれたようだ。 お家デートと張り切る天使を見上げるとまた反応しそうだったので、俺は最近YouTubeで見たシベリアンハスキーの遠吠えシリーズを思い出しながら、暖くんに朝食の提案をしたのだった。

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