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禁止

それからの日々、俺は俺なりに彼のハードスケジュールを気にしながらも、そもそもの依頼だった火傷の治療について勉強を進めていた。 ツアーが終了した5月、未だ信じられないが、彼は俺の自宅で、俺の食事をパクパクと美味しそうに食べている。 かつては無機質なグレー一色で、生活感の欠片もなかった我が家に、今では暖くんの持ち込んだ大きなテディベアが居座っている。L字ソファーの前のローテーブルには、少年漫画や少女漫画、iPad、食べかけのお菓子の袋が、まるで彼の一部であるかのように無造作に、けれど賑やかに散らばっていた。 ソファーの上にはまだぬくもりが残るひざ掛けが、小さな山となって形を壊さず耐えていた。 適当に置かれたひざ掛けも可愛いなんて天才だな。 俺は今まで人と暮らした事がなかったので、いくら推しといえどこういった散らかしについてイラつくのではないかと心配した事もあったが、全く気にならないのだ。 暖くんが食べかけのお菓子をそのままにすれば片づけるくらいはするけど、几帳面で真面目に生きてきた俺には、彼の気配が残るその空間が、とても新鮮で愛おしい散らかり方に思えた。 「明日は土曜です!」 味噌汁を飲み終えた暖くんが、器をテーブルに置くとずいと顔を出して、なにやら俺にいきおいよくモノ申してきた。 ちょいちょい男らしい動作がこりゃまた可愛い。 「そうだね、土曜だ。明日はお仕事?」 「いえ、明日から2日間オフなんです」 「へえ、珍しいね。ゆっくり身体を休めないと」 20歳といえど、俺の家に住み始めてからの暖くんは朝早く出ていき泊まりも多い。相当疲れているはずだ。1週間顔を合わせないなんてざらだ。 「凍さん!」 俺の言葉を聞いた暖くんは、バンと机をたたき更に身を乗り出して来た。 怒っている…可愛い。 「え?なんかまずかった?あ、ご飯足らない?明日休みだし何か追加で作ろうか?」 「ちーがーうーだーろー!!」 「ええ、何が違うんでしょう」 俺は暖くんの大きな声に身を震わせた。本当に怒りを買ってしまった。 そうだよな、こんなおっさんと暮らしていくら顔を合わせないっていったってストレスしかたまらないよな…。気が付かなくてごめん。 この数週間の日々は奇跡と思って、墓場まで持っていこう。 「凍さん!完璧すぎるんです!毎日毎日健康的な食事を冷蔵庫に用意してくれて…洗濯や掃除だって完璧だし。俺が気を遣わないように遅く帰れば、もう寝てるフリしてますよね!?」 ば、ばれている… だって推しの身体のお世話をさせていただけるなんて、こんなありがたいことはないし…あ、体のお世話って変な意味じゃないよ。 「だって暖くんは、売れっ子さんのアイドルなんだし…俺は一人暮らしの頃と何も変わらないんだよね。だから気にしないで」 変わらないわけがない。毎日仕事が終われば成城石井に猛ダッシュして、栄養バランスの整った食事を作るのに2時間は費やしているし、暖くんの脱ぎ散らかしたお洋服様たちをかき集めてムラムラしないように自分を殴りながら家事にいそしんでいるのだ。 もちろんそのあと、持ち帰った仕事と、火傷の治療についての勉強も欠かさない。生身の暖くんと出会う前より暖くん中心に生きている…。 はぁ…だから最近全然ライブ映像とかドラマとか追えてないな…だから微妙に体調悪いのかな。 「もう!凍さん!それじゃあ住み込みの家政婦さんじゃないですか!」 何それ〜幸せ〜 ずっと家政婦やらせてもらえたらもう本望だよ。医者やめたーい。 あ、でも治療もあるし…何よりこの生活を維持するには辞めるわけにいかないか。 「ええ、そんなプロみたいに完璧じゃないけど。でもそう思ってもらえたら」 「だめだ…この人は…」 「だ、だめ!?」 「明日から2日間家事禁止です!!俺と2日間あまあまデレッデレの恋人としての時間を過ごしていただきます!!」 暖くんは食器をやや乱暴にかき集めキッチンへズカズカと怒りのオーラを消さないままシンクに並べて、跳ね上がるほど勢いよく水を出して、致死量の洗剤をスポンジにつけて洗い始めた。 恋人としての2日間…その甘美な響きの単語に対して、情けない俺の脳内は一気にピンクとなり、最近忙しさにかまけて処理していない下半身をズクンと刺激した。

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