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睡眠

荒々しい洗い物の動作にやや高級な食器たちは耐えてくれたようだ。 食洗機もあるが、暖くんの一所懸命お皿を洗う姿に水を差すことは出来なかった。 とはいえ暖くんの気持ちはありがたいと思いつつ、商売道具である身体を傷つけてはいちファンである俺自身が辛い。 明日からはいつも通り全ての家事は俺にやらせていただこう。 「凍さん!」 流しに設置されたふわふわのタオルで手を拭くと、真後ろに立ってる俺に向かって指を指す天使。 「今から僕たちはいちゃつきます!」 「はははははは‥」 「何故そんないちいち不満げなんですか!?」 「ふふふふふ不満!?滅相もない!!」 俺はブンブンを首を振って否定したが、暖くんは信用していませんという顔つきで、ジト目で俺を見つめている。 「今日は凍さんの部屋で寝ます」 ん?俺の部屋?? 「え!俺の!?」 「何か問題あるんですか?仮にも僕たちは付き合っていますよね?」 問題‥はない。物理的には。暖くんメインのシュガクレグッズは重々に隠してある。同居開始する前日に徹夜でダンボールに泣く泣くダンボールに入れさせていただき(もちろん新品ダンボールに緩和剤をふんだんに使ったよ) しかし、あの神聖な推し部屋にご本人をお招きして‥一緒に寝るなんて。 全sugar☆crepesファンがどう思うのだろうか‥中でも暖くんファン。 先日、XのDMで熱く語り合ったはんぺんさん。彼女は箱推しだけど暖くんのグループとしての立ち位置及び売りをよく理解している。 俺がゲイのおっさんだと知った上で偏見なく接してくれている数少ないヲタ友なのだ。 …ん? 何かがおかしいぞ。 こんなに好きで好きでたまらない男が、俺と恋人になって同じベッドで寝たいと言っている。 なのになんで俺はネット上でしか会ったことがないヲタ友達との今後の交流について心配しているのだ…? 「凍さん?」 俺からの反応がなく心配してくれたのか、まんまるお目目の暖くんが俺の顔を覗き込む。 あぁ、こういう上目遣い。単独カレンダーの12月にあったな。 クリスマスツリーをバックに上目遣いする暖くん。クリスマスデートを連想させる、素晴らしい1ページだ。 「凍さん!!??」 「はっ!」 「そんなに嫌ですか…?僕を部屋に入れるの」 「まさか…嫌なんてとんでもないよ。仕事の書類でごちゃついているし…  あと、やはり俺も健全な男性なので、この前みたいな事が起きちゃったって思うと」 「恋人ですよ?起きていいんです。えっちなことは!」 そうか…今の俺は、彼のファンでもあるけどそれ以上に恋人なんだ。 恋人はそうだよな。肌を重ね合わせてぬくもりを共有するのが愛情表現だったりする。暖くんは若いしきっと興味津々なんだろう。 何より…俺のこの整理がつかない脳内にいるくだらない混乱のせいで、彼を傷つけたくない。 「えっちなことは…なるべくゆっくり進めたいけど…一緒に寝ようか?」 俺の穏やかな声色の提案に暖くんの顔がぱああと、朝日が差し込んだ。 真っ暗ではなかったけど、俺の気持ちを確かめるような、夕立が降る前の雲のように怒りと期待がこもった表情だった。 「したかったらしてもいいんですよ?」 「ははは、でも寝るのは暖くんの部屋でもいいかな?俺の部屋は患者さんの個人情報も入った資料もあって。片付いていないんだ」 「…それなら仕方がないです。僕の部屋でいちゃつきましょう」 「ありがとう。暖くんと寝るの緊張するなぁ」 「この前あんなことしておいて〜?」 ケラケラ笑いながら、寝室に向かって歩いていく暖くんの後ろをおってゆっくりと歩いた。仕事の資料なんてPCに保存されているから、暖くんがパスワードを突破しない限り、見られることなんてない。 俺は嘘をついた。寝室に暖くんを入れるのを拒んでしまったのだ。 最低だ。 数歩歩けば到着する暖くんの寝室なのに、俺には永遠にづづく長い道に感じられた。長く、幸せなのに何故か満たされない彼への気持ち。 俺は。 彼に恋はしていない。

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