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第4話

 どさりと大きな音を立て、絨緞の上に倒れこむ。  幸いこの部屋は電子機器の使用が多いために防音加工されているのでリビングの方には音が聞こえず、大事にならずに済んだようだ。  そんなことを考え、倒れたまま安堵した次の瞬間。伊織から声がかかる。 「…大丈夫?颯希。」 「へ?」  伊織の声がすぐ近くから聞こえ、素っ頓狂な声が出る。  ぎゅっと瞑っていた目をようやく開けた。 「!?」  目の前に伊織の顔が現れ、唇同士が触れそうなほどの距離感に驚く。  混乱する頭を必死にフル回転し、現状を把握した結果、自分が伊織を押し倒している状況に顔がだんだんと赤くなる。 「顔、赤いよ。本当に大丈夫?」  伊織が不安そうな表情を向けてくるも、颯希の頭の中はそれどころではなかった。  自らの心臓が破裂しそうなほどに高鳴り、いつのまにか耳まで赤くなっている現状にただただ戸惑っていた。 「颯希?」 「あ、ああ。ごめん。穂積。」  名前を呼ばれ、慌てて伊織の上からどく。 「怪我とか、してない?」  伊織は真剣な表情を向けて尋ね、颯希がこくりと頷いたのを確認した後、大きく息を吐いて「なら、よかった。」と優しく笑った。 「ただいまー。って、ん?颯希?どうかしたんか?」  直後、帰ってきた悠馬は赤い顔の颯希を見て尋ねるも、「なんでもないよ。」と返され、「そっか!じゃあいいか。」と軽く返した。 「はぁ…。どうしよう。」  解散後、夕飯と入浴を済ませた颯希は自分の部屋のベッドに横になり、今日のことについて悩んでいた。  伊織とは一年生の頃から少しずつ仲良くなった大切な友人だ。  それに、本人は知らないだろうけれど、恩人でもある。  小さい頃から姉や弟よりもずっとしっかりとしていたために両親から世話を焼かれることもなく育った。  周りからは偉いと言われて羨ましがられていたが、実際は嫌われることを恐れていた自分がいた。  愛して欲しかったから良い子でいようと思っていた。  けれど、手のかかる子ほど可愛がられるのが現実。  心の隅では寂しく感じていた。  そんな時、伊織と出会った。  一年生の頃はあまり心を開いてくれず、冷たい印象があったが今では素直で自由な人だとわかった。  正直、愛して欲しいと素直に言う事ができなかった自分にとってそんな彼が羨ましく感じていたし、尊敬もしていた。  そして最近、また他の感情が自らの中に芽生えてきた事に気付いた。  それはたぶん、恋愛感情。  彼に素直に甘えられているうちに彼が好きになってしまった。  今まではこんな感情は考えないようにしていた。  そもそも男同士。  恋愛感情なんて、持っているだけ無駄だから。  けれど、今日、あのままキスしそうになった自分をもう隠せない。

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