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第5話

「…認めるしかないか。」  重い溜息とともに自らの伊織への恋愛感情を受け入れ、そのまま静かに目を閉じる。  しかし、必死に寝ようと心がけても、脳内に今日の伊織のことが浮かんでなかなか眠れない。 (体、細かったな。  肌とか、凄く白いし。  右側が少し長めの黒い髪の毛はすごく柔らかそうだった。  触れそうだった唇も、乾燥とかとは無縁そうで綺麗だった。  澄んだ青緑色の瞳も、まるで吸い込まれそうな不思議な感じがした。  穂積って、あんなに優しい匂いするんだっけ?)  次々と思い出される場面の数々。  目を開け、それらが流れ込むのを止める。 「なんか俺、変態みたいだ。」  自分の考えていたことに恥ずかしさが込み上げる。  次の日。  結局、昨日はあまり寝れなかった颯希は朝から眠そうに瞼を擦る。 「おはよー」  悠馬が教室の扉をガラガラと開け、軽い口調で声をかけた。 「おはよう。」  颯希がさらりと返した後、悠馬が辺りを確認しながら側に寄ってきた。 「ねね。あのさ、明日から冬休みじゃん?なんか伊織と予定とか入ってないの?」 「…?特にはないけれど、なんで穂積と?」  心底不思議そうな表情を浮かべる颯希に、悠馬がこっそりと告げる。 「お前さ、伊織のこと恋愛対象として好きだろ?」 「!?な、なんでお前、それ知って…!」 「だってさ、わかりやす過ぎでしょーよ。伊織に抱きつかれて赤面してるし。」  自分では何も気付いてなかったことに恥ずかしさを感じる。  悠馬は「頑張れ颯希くん♪」といたずらに笑いながら自分の席へと戻っていった。  放課後。伊織が悠馬と颯希を呼び止めた。 「二人さ、一月二日って、空いてない?  俺、初詣行きたくてさ。一人でもいいけど、空いてるなら一緒に行かない?」  伊織は意外とアウトドアなところがある。  普段は無気力そうで、家ではパソコンをいじっているが、アスレチックや海水浴、キャンプなど、多種多様な物事に興味を示す。 「ごめん。俺、その日は幼馴染と約束があるんだよね。」  悠馬は両手を合わせ、心底申し訳なさそうに伊織の誘いを断った。 「俺は空いているよ。」  颯希が告げると伊織は嬉しそうに笑った。 「じゃあ、二人で行こう。場所と時間はあとでメールするから、確認しておいてね。」 「穂積と二人で初詣、か。」  風呂に入りながら、颯希は今日した伊織との約束について考えていた。  鏡を見ずとも惚けているであろう自らの顔面にお湯をバシャリとかける。 (緊張する。  何着て行こう。  約束の十分前には着いて待っていようかな。  穂積は多分、十分以上は遅刻するだろうから近くに喫茶店でもないか探しておかなくちゃ。) 「って、なんか、デートみたい。」  「女子みたいだな。」と自分の発言に笑みがこぼれる。 (穂積はどんな格好してくるのかな。  普段、無気力そうなのに私服は結構おしゃれで、初めて見たときは驚いたっけ。  シルバーのネックレスに革製のブレスレットとか、小物もきちんと身につけてくるし、見た目だけならしっかりしてそうなのに、本人は何事もだるそうで。  そんなところが可愛く感じる。) 「俺って、本当に穂積が好きなんだな。」  少し笑って風呂場から出た。

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