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第7話
途端、ドクンと自らの胸が高鳴るのを感じた颯希は赤くなった顔をうつむかせた。
正直、颯希は伊織のこういうところが少しだけ恥ずかしいと度々感じている。
恋愛的な好意があるわけでもなんでもない。
けれど、人の好きな所を呼吸をするかのように自然に好きだと言う。
普通の友人なら言われても軽く流せる所かもしれない。
だが、恋心を寄せている相手が言うのだから、言われた方はたまったものではない。
しばらく他愛のない話をしていると、今度は先ほどの男性店員がカフェオレを運んできた。
「お待たせいたしました。カフェオレです。」
伊織が角砂糖を一つ入れ、静かにカフェオレを一口飲む。
その姿が同い年の男子とは思えないほどに綺麗で颯希は見惚れてしまっていた自分に恥ずかしさを感じる。
「…苦そう。」
颯希がぽつりと呟くと、伊織はまた少し面白そうに笑った。
「角砂糖一個入れてるし、苦くなんかないよ。」
伊織がカフェオレを飲み終え、二人はカフェを後にした。
「うわ、すごいねー。人、多すぎ。」
「ほんとにね。はぐれたら大変そう。」
神社は初詣に来た人々で賑わっていた。
あたりには数々の屋台が立ち並び、あらゆる所から美味しそうな匂いが漂っている。
伊織は「おみくじ引こうよ。」「あれ食べようかな?」「お参りしなきゃね。」とまるで子供のようにはしゃいでいる。
その姿は学校ではいつも眠そうで、行事が近づくたびに憂鬱そうにしている普段の伊織と同じ人物だとはとても思えない。
そのギャップに、今度は颯希が面白そうに笑った。
「そうだ!」
突然、何かを思いついたかのように伊織が颯希の方へと歩く。
不思議そうな表情を浮かべる颯希は次の瞬間、顔を真っ赤に染めた。
「え!?」
声をあげた瞬間、自身の右手が暖かいことに気がつく。
そう、手を繋がれていた。
驚く颯希に伊織は柔らかな笑みを浮かべる。
「さっきよりもだいぶ人が増えたし、寒いし。手、繋ご。はぐれたら大変、なんでしょ?」
伊織が先ほどのセリフを覚えていたことにも驚くが、繋がれた右手から自身の心臓の高鳴りが伝わるのではないかと少しだけ焦る。
「なにぼーっとしてんの?行こ!」
颯希のあわあわとする内心を察されることもなく、伊織は手を引いて人混みの中を歩いていく。
伊織の態度から、明らかに他意はないことがわかるとほんの少しだけ伊織のことが憎らしく感じた。
中学生にもなると、男同士で手を繋いで外を歩く行為はとても目立つものだ。
それは現状も例外ではない。
道ゆく人々が手を繋ぐ二人を二度見する。
しかしながら周りからの視線が刺さることに気づくのは颯希だけだった。
周りからの視線に恥ずかしさが込み上がる。
けれど、繋いだ手の温かさが気恥ずかしくも嬉しくて、離して欲しくないとも感じていた。
空いた左手で左胸をぐっと抑える。
(やばい。俺の心臓、うるさい。)
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