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第22話

「んー?そうだね、色々考えてた。」  「色々?」尋ねた颯希に少し俯いた顔の伊織が答える。 「そ。最近さ、部活で神崎からの態度が酷くて。  俺、なんかしたかな?って。」  颯希は尋ねたことを後悔した。  こんなタイミングで、神崎の話は聞きたくなかった。 「俺、自分じゃ気づかなかったけど、素直すぎるって、よく周りに言われてた。良い意味でも、悪い意味でもって。  人に言われて、気づいた。」  颯希は表情には出さず、伊織の話を聞きたくないと感じていたが、どうやら悩んでいることは神崎のことではないらしい。  確かに、伊織は素直だ。  良い意味でも、悪い意味でも。  好きなら好き。相手に対して心を開いたら、とことん甘える。「好き。」とか、「大切。」を言葉と態度でストレートに伝える。  嫌いなら嫌い。言葉で、態度で、邪険に扱う。「嫌い。」や「うざい。」「怠い。」は伊織の心の底からの言葉。  ちなみに、好きでも嫌いでもない、というのもわかりやすい。あまり相手に話しかけず、必要のある時だけ口を開く。周りに関わることもなく、一人で勉強をしていたりする。  だから、伊織がどんな人か、と聞かれた時、人によって回答が変わるだろう。  颯希や悠馬のように好かれている人からすれば、甘えん坊で、頑固。  神崎のように嫌われている人からすれば、生意気、威圧的。  好きでも嫌いでもないと思われている人からすれば、冷たい、何を考えているのかわからなくて怖い。  よくもまあ、ただ一人の同一人物についてこんなにも意見が分かれるものだなと思う。  そんな伊織から紡がれる言葉は一つ一つが重い。  もし、颯希が伊織に「嫌い。」と言われたなら、ショック過ぎて倒れるだろう。 「良い意味でも、悪い意味でも、俺は、思ったことをそのまま言ってるだけ。  それが良い意味で出た言葉か、悪い意味で出た言葉か。  俺自身にも区別がつかない時がある。」  ちらりと見た伊織の表情は真剣で、声のトーンも低い。 「子供、だよね。俺自身が一番、そう思ってる。わかってるけど、治せない。  俺って、甘えてるよね。」  伊織はふわりと笑う。けれど、その表情には儚さを感じた。  自分の短所に気づくことすら大変なこと。  そして、気づいても、それを治すには時間がかかる。  大人ですら気づいても治すことは難しい。  それに、伊織はまだ中学二年生。気づけただけでもとても凄いことだ。  きっと伊織は、その自分の短所で神崎を傷つけたかもしれないと感じたのだろう。  だからこそ、焦って治そうとした。  伊織は本当は優しい。  相手のことが嫌いと言いつつも、自分の短所について悩めるのだから間違いない。  颯希は思ったことをそのまま返す。  それが、一生懸命に相談してくれた伊織への返事だから。 「自分の短所に気づけただけでも、凄いよ。  すぐに治そうとしなくても良いと思う。焦って、迷って、悩んでするより、少しずつ気にしてみることから始めれば良いと思うよ。」  泣きそうなほど表情を暗くして、俯いていた伊織が顔を上げる。  その表情にはもうもやもやとした雰囲気はなく、顔を向けられた颯希が頰を赤く染めるほど晴れやかで、綺麗な笑顔が浮かんでいた。

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