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第40話

「よっしゃ。んじゃ、行こーぜ」  スケートシューズに履き替え、準備を済ませた三人は、ようやくスケートリンクを滑り始めた。 「おおっ。伊織すげーな」  三人の一番前で、スイスイと自由に動き回る伊織に、悠馬が驚きの声をあげる。 「俺、小さい頃に家族と何回か来てたから」  無表情だが、その声は楽しそうだ。 「悠馬、スケート苦手?」  逆に、伊織が悠馬に声をかけた。  悠馬は少し困った様にへらりと笑って、頰をかく。 「…あはは。まあ、あんま得意じゃないかな。でも、楽しいから大丈夫っ!」  先ほどの困った様な表情を吹き飛ばし、にっ、と晴れやかに笑う悠馬。  スケートを提案した伊織に罪悪感を与えることのないよう、明るく返し、伊織に続いて、ゆっくりと滑り始めた。 「ねっ、ねえ。ちょっと待って!」  困った表情で颯希が口を開く。  その姿を確認した二人はきょとんとした顔をした。  そして、悠馬が颯希の言おうとすることを察した。 「颯希、お前まさか…スケートすんの、初めて?」  悠馬が尋ねると、颯希はこくりと頷く。  颯希の頷きを見た二人は目を見開いた。  颯希は深い関係の友人が極端に少ない。  その場で一時的に一緒にいる、くらいの浅い関係の友人なら多くいるため、学校では特に目立つことはないけれど、一緒に遊びにいくほどの友人は実はそんなにいない。  親がインドア派な颯希の家では、家族でどこかに遊びにいくことも少ないし、颯希自身もそれほどアクティブではないため、こうやってスケートをすることはなかったのだ。  けれど、颯希の家族については「姉と弟がいる」くらいしか知らない二人は顔を見合わせていた。  そして、スイスイと氷の上を滑り、伊織が右手を伸ばす。 「はい、掴まって」  手すりがあるのにと考えた颯希は、後ろから同じ様に手すりに掴まって練習している何人もの子供達を見た。  「うん」と左手を伸ばし、手を繋ぐ。  悠馬は他の人たちとの衝突を避けるため、颯希と伊織の後ろをゆっくりと進む。 「かかとつけて。それから、九十度くらいつま先開いて」  「こう?」と素直に伊織の指示を受ける颯希。  頭の回転が早い颯希は次々と伊織の説明を理解していく。 「ん。颯希、上手いね」  優しく笑う伊織を見ていると、先ほどのことが頭に浮かんできて、颯希の顔が熱くなっていく。  伊織にはすでに、先ほどのことを気にしている様子などない。  本人が意識してそうしているのか、それとも素で忘れているのか。  そして顔を赤らめた颯希を心配した伊織は、颯希の顔を覗き込んだ。 「…風邪ひいた?大丈夫?」  目の前の伊織の顔が一気に近づいていく。  鼓動が早まり、脳を溶かしそうなほどに熱くなる。  颯希は慌てて一歩下がった。  今立っている場所が、氷の上だということを忘れて。

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