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第46話

 ボウリング場の中へと入り、受付に並ぶ。  二階建て、八十レーンのわりと大きなボウリング場。  春休み期間ということもあり、かなり混んでいるようだ。  各レーンでは小学生くらいの子供から、高齢者まで幅広い年齢層の人々が和気藹々とボウリングを楽しでいる。 「中学生三名様で五ゲームですね。第十四レーンです」  受付の女性店員が素早く手続きを終える。  悠馬が先頭を歩き、途中で自分のサイズにあったシューズを借りながら指定されたレーンに向かって歩く。  荷物をプラスチック製の椅子の上に置き、先ほど借りたシューズに履き替え始めた。 「そういや、なんでボウリング?」  悠馬が何気なく尋ねると、伊織はゆっくりとした動作で靴を履き替えつつ口を開く。 「俺、一年の時、学年行事休んだから。やりたいかもって、思った」  一年生の九月に開かれたボウリング大会。  生徒同士の交流を深めることを目的として設けられた学年行事の一つだ。  そのため、同じ会場で集められたクラスの生徒たちをバラバラに組ませ、一チーム四人ほどで対決させられることとなった。  三人の通う、鈴風中学高等学校は男子校であり、スポーツ系の行事には暑苦しいほどに燃え上がる。  だからこそ、こういう行事を通して交流を深めるという、本来の目的を容易く達成することができ、代々中学一年生と高校一年生の学年行事とされている。  実際、悠馬はこの行事で多くの友人ができ、もともとクラスの人気者ではあったが更に人脈を広げた。  颯希も部活やクラス内だけでなく、他クラスの生徒数人と接した。  けれど伊織は来なかった。  行事の後、来なかった理由をそれとなく尋ねてみると、伊織は引きつった表情をした。 「クラスの人たちだけでも辛いのに、他のクラスの初対面の人たちと接するとか、無理すぎ」  綺麗な顔でさらりと告げた伊織に、当時の悠馬と颯希はひどく驚いた。  そのことを覚えている颯希は当時の考えを呟く。 「ボウリングが嫌なのかと思ってたよ」  運動嫌いの伊織が、ボウリングというスポーツをやると言われれば「面倒臭い」と言って休むだろうと考えたのだった。 「うーん、ボウリング自体は、あの時の気分的にやっても良かったんだけど…」 「他の奴ら、だろ?」 「うん」  過去の会話を未だに覚えているのは悠馬も同様で、伊織の歯切れの悪い発言を補ってやる。 「三人で来れて、良かったね」  ゆったりとした口調で話しながら、颯希が笑うと、伊織はぱあっと表情を明るくして頷いた。  それを見た悠馬が口を開く。 「伊織ってさー、子供っぽいよなぁ」  伊織は目を瞬かせ、首を傾げた。 「…どーゆーこと?」  じっと見つめられた悠馬が「うーん」と考える。 「そうだなぁ、反応っつーの?仕草とか」  曖昧な答えに、本人は余計に不思議そうな表情を浮かべた。 「まあいいじゃんいいじゃん、それより、ボール取りいこーぜ」  うまく説明できず、逃げるように話題を変えると、悠馬はさっさと立ち上がった。

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