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第47話

 当然のことだが、ボールには様々な重さがある。  一般的に、自分の体重の十分の一の重さのボールを選ぶのが良いとされ、つまりは一ポンド四百五十グラムに自分の体重をかけ、更に千分の一すればいい訳だ。  更にそこから自分の腕力等を計算し、調節を加える。  それぐらいの計算なら中学二年生でもでき、もちろんのことながら颯希は計算して自分にあった重さを選ぶ。  重さを決めても、ボール選びはまだ終わらない。  中指、薬指、親指を入れる三つの穴も重要だ。  颯希の指は同い年の男子に比べて長く、細い。  故に、ボールの重さのみで選ぶと指が緩くなりすぎる可能性もある。  スマホを片手にぶつぶつと呟きながら慎重にボール選びをする颯希に悠馬はぷっ、と吹き出した。 「あははっ、マジかよ。そんなに慎重にボール選ぶやつ初めて見たわ」  悠馬はボウリングで遊び慣れているらしく、思案することもなくパッと決めた。  伊織は面倒な計算をすることなどなく、ボールラックに並べられた数多くのボールを眺め、適当な重さのものから実際に持って確認していく。 「十人十色ってことなんだろーけどさぁ。三人でボール選ぶだけでこんなにも違うもんかね?」  十四レーンまで戻りながら会話をする悠馬は、まだ笑っていた。 「悠馬ほどこういう場所に慣れてないから、仕方ない」  好みのボールが見つかったのだろう、嬉しそうにほわほわとした雰囲気を放つ伊織がぼんやりと返した。 「いや、伊織はまだ一般的だったんだけど、颯希はやばい」 「えー、そんなに?」  悠馬が頷き、伊織がぼそっと告げる。 「これ、一生ネタにされるね」  「それな!」と笑う悠馬に颯希が「それはやめて」と抵抗した。  ボールを選び終え、ボールリターンに三つのボールが並ぶ。  一ゲーム目が始まり、各レーンに設置されているモニターには順にイオリ、サツキ、ユウマと映し出されていた。  久々に持ったボールは重く、助走をつけるがあまり効果はない。  伊織の手から離れていったボールはごろごろとレーンの上を転がる。  勢いのないゆっくりとしたボールはガターすることもなく、ヘッドピンに当たる。  真ん中の列を綺麗に倒していき、見事なほどに両側が残る。  第二投も同様に過ぎ去り、最終的に三本ほどを残すこととなった。  どちらのボールの速度も十六キロメートル毎時を記録していた。  驚くほどに、遅い。  目でもモニターでも確認し、颯希と悠馬が「おお」と声を漏らす。 「すごいね。綺麗に真ん中」 「確かにすげー。ある意味で」  二人はそれぞれ違う意味で驚いているのだが、投げた本人はそんなことに突っ込んだりはせず、唸りながら席へと戻る。 「難しい…」 「まだまだこれからだって!頑張れ伊織」  悠馬が伊織の頭をわしゃわしゃと撫で、元気な笑顔を見せた。  助走は四歩。  できるだけガターは避けたいから、勢いをつけすぎずに投げる。  ボール選び同様、冷静に考える颯希。  投げたボールは颯希の予想よりも少し速いくらいだが、しっかりとピンデッキまで辿り着き、数本を残して倒していった。  第二投、先ほどの投球から学び速度を落として確実に残りのピンを狙う。  けれど今度は遅くなり一本を残すこととなったが、後ろの二人は驚いていた。 「お前、上手いな」 「安定してるよね。見てて安心できる」  正直、速度が上手く掴めずに四苦八苦していたのだが、二人の反応で「そうかな?」と笑って見せることにした。  悠馬がボールを持つ。  けれど颯希のように考え込むことはなく、案外すぐに投げた。  投げられたボールはまるで元気な悠馬そのもののように勢いがいい。  一般的に速球と呼ばれるほどのボールは的確にポケットに直撃し二本ほどのピンを残してピットへとその姿を消した。  第二投もほぼ同じ速度を保ち、真っ直ぐに狙ったピンを倒す。 「スペア」  発音良くモニターから音声が流れ、「よし」と悠馬が背後を確認すると二人は目を見開いで固まっていた。 「おーい、おいってばっ!どーした?」  はっ、と気づくと二人は「すごい!」と見事にハモった。  えへへ、と嬉しそうに笑いながら席に座り、伊織と交代する。

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