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第48話

 そうしてゲームは進み、気づけば最終ゲーム中場。 「俺、成長してる…かも?」  スペアが増え、数回のストライクを叩き出した伊織が疑問形で話す。 「かもじゃないよ。ほら、穂積の成長がスコアに出てる」  颯希が手元のディスプレイを手早く操作し、四ゲームと少しのスコア表を伊織に見せる。 「颯希ほどじゃないけど、嬉しい」  少し前に自販機で買ってきたペットボトルのお茶を片手に、伊織が笑う。 「颯希はおかしいわ!もう怖すぎ」  第五フレームを終え、帰ってきた悠馬が二人の会話を聞いて突っ込む。  悠馬はスペアが多く、たまにストライクを出すというスコアがずっと続いていた。  それは普通に上手いはずなのだが、颯希の成長が凄すぎるだけだ。  一ゲーム目では度々数本を残していたスコアは、二ゲームからはスペアを当然のように叩き出せるようになり、ストライクも少しずつ出していた。  四ゲーム以降ではダブルやターキーを出すようになっていた。  伊織が第六フレームを始め、悠馬と颯希が話し始めた。 「勉強もだけどさ、お前ほんと怖い」 「そんなことないでしょ」  頭の上にはてなマークを浮かべていそうな颯希の表情に悠馬が両手で自らの顔を覆った。 「はぁ、ああ、うん。お前はそういうやつだよな」  天然すぎる颯希に、「もはやため息しか出ない」と悠馬が告げる。 「うわぁ」  声を出したのは伊織。  第六フレーム、颯希が再びストライクを出したのだった。 「流石にそろそろ疲れてきたかな」  投球で疲労した手首を回しながら悠馬と交代で椅子に座る。 「手首痛いよね」  伊織も同様に手首を回し、えへへ、と笑いかけた。 「そろそろ喉も乾いてきたし、何か買おうかな?」  一ゲーム目から何も飲まずにいたためか、颯希の喉が渇きを訴え始めた。 「俺のでよければ、どうぞ」  先ほど伊織が飲んでいたペットボトルのお茶を颯希の前に差し出し、「はい」と手渡す。  三人で食堂に行くようになり、仲良くなってきた頃。  飲み物の回し飲みをすることもあった。  それは珍しい光景ではなく、特に男子校に通うならほぼ当たり前のような光景。  日常のやりとり。  だからこそ、伊織がこうやって颯希に飲み物を手渡すことは特に気にすることもない、「普通」の行為なのだ。  けれどそれは、相手のことを意識し始めれば以前とは違うものになる。  それは「回し飲み」ともいい、「間接キス」ともいうからだ。  渡されたペットボトルを見ると、颯希がすぐ飲めるようにという配慮からキャップを外されていた。  伊織を恋愛対象として認識する前、自分はそれをどうやって自然にもらっていたのかもう思い出せない。 「どうしたの?」  戸惑う颯希の心を察することもなく、右手にキャップを握りしめた伊織が首を傾げて颯希を急かす。  「こういうのは勢いだ」と自分に言い聞かせ、ペットボトルの口に唇を当て、お茶を口内に流し込む。  ごくん、と音を鳴らした後、ペットボトルを素早く伊織へと返した。 「あっ、ありがとう。おっ俺!ちょっとお手洗い行ってくるね」  慌てて紡いだ言葉に「?うん」と不思議そうに返す伊織。 「どうかしたん?」  颯希が席を立った後、第六フレームを終えた悠馬が声をかけると、伊織は首を傾げた。 「んー、よくわかんないけど、颯希がなんか…慌ててたみたい?」 「なんじゃそりゃ」  二人はお互いに顔を見合わせた。

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