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5話 食材をゲットしよう

 王立ステラ学園は、全寮制である。食堂の利用は自由だが、逆に言えば食堂を使わない場合、食事を抜くか学園の外に食べに行くという選択肢になる。 (本店に行けば材料も飯もあるけど)  『日の本商会異世界出張所』の本店は、王都にある。当然、そこに行けば経営陣であるフタミたちはある程度、店のものを自由に使えるだろう。だが、王都のメイン通りに位置するその場所は、微妙にステラ学園と遠かったりする。馬車を使って、往復四十分。悩ましい距離である。  朝のホームルームが終わると、フタミは早々に食堂の方へ足を運んだ。食堂では、昼食の準備が始まっているらしく、作業音が外まで響いている。 「こんにちはー」  ひょこ、と顔を出したフタミに、野菜を洗っていたおばさんが顔を上げた。 「あらまあ。どうしたの? お腹が減った?」  クスクス笑いながら、女性はエプロンで手を拭いて近づいてくる。どうやら、育ち盛りの男子が多い学園では、食堂のキッチンに何かをねだりに来る生徒もいるようだ。 「食材って、分けてもらうことできない? お金は少しならあるんだけど……」  人懐こい顔で、フタミはそう言って拝む。正直、少しどころかちょっとした貴族より、動かせるお金は多いのだが、平民の制服を着た生徒が言うことではないので、あくまでも慎ましく交渉する。 「ここにある食材は、予算で決められてるの。倉庫管理人に聞いてみると良いわ。結構、お貴族様からの寄付もあるから、使いきれない分は売ってくれるわよ。平民の生徒はそうやってるわね。あとは水曜の朝に、近くで市が立つから、そこを使うと良いわよ」 「なるほど。教えてくれてありがとう。お姉さん」 「あら、上手ねえ!」  女性は気をよくしたのか、奥のテーブルからパンを三切れほど包んでフタミに手渡してくれる。お礼を言って、フタミはそのまま倉庫の方へと足を向けた。  ◆   ◆   ◆ 「ここかな?」  女性の教えてくれた場所にやって来たフタミは、あたりをきょろきょろと見回す。幸い、目と鼻の先だったため、迷子になることもなかった。赤い煉瓦造りの建物は、なかなかに堅牢だ。  鉄製の重そうな扉の前に居た少年に、フタミは片手をあげて近づいていく。 「やあ、どうも。君はここの管理人かな?」 「あ……。生徒さん。管理人のおっさんは休憩中。俺は下働きだよ。まあ、用件なら聞くけど」  そばかす顔の生意気そうな少年が、胸を張ってそういう。 「ここで食材を売ってくれるって聞いたんだけど」 「ああ。その話ね。今日売れるのはパンと卵とベーコンの端っこ、あとはこっちの箱の野菜。パンはカゴいっぱいで銅貨30枚。卵は一人3つまで。3つで半銀貨1枚。ベーコンは半銀貨1枚と銅貨10枚。野菜はどれも銅貨2枚だよ」  少年が木箱をひっくり返したテーブルの上の食材を指さしていく。野菜は安いが、卵は少し高め。パンは市場で買うのと同じ値段だ。パンは今朝焼かれたものだろう。野菜の方は――多少鮮度が落ちているが、悪くなっているようではない。 「お。良いねえ。じゃあパンと卵とベーコン……ん? 果物もあるの?」  木箱の端っこに置かれた果物のカゴに視線を向ける。少年は慌てたように、果物を隠そうと背中にする。 「こっ、これは違うっ」 「お、おう。そうか」  フタミとしては何となく目に入って聞いただけなので、ちょっと悪いことをしてしまった気分だ。少年はフタミに取り上げられるとでも思っているのか、子猫が威嚇するようにキッと睨みつけて来る。 「そんなに怒るなよ――」 「何をしている」  フタミが少年を宥めようとした、その時だった。凛とした声が、背中に突き刺さる。  フタミが振り返ると同時に、少年が顔を上げ嬉しそうに笑った。 「あっ、ディオルフ様っ!」 「――――げ」  思わず呟いたフタミに、ディオルフが耳ざとくその声を拾い、目を細める。 「お前は……」 「あ、あはは……。よー……」  怪訝な顔をするディオルフと、目を逸らしへらっと笑うフタミに、少年は目を瞬かせる。 「あれ? お知り合い、ですか?」 「あんや……。なんだよ、お前こそ、ディオルフと知り合いだったの?」  深く突っ込んで欲しくないと、フタミはスッと話題を変える。その様子に、ディオルフは呆れたようにため息を吐く。 「……揉めていたわけではないようだな。この者は、うちで働いていた使用人の子息だ」 「ロビンと申します」 「へえ、ロビン。よろしくな。俺はフタミ」 「………俺には名乗らなかったのにな……」  ボソリとディオルフが呟くが、フタミの耳には届いていない。 (ふーん。働いてたってことは、退職したってことだよな。使用人の子どものこと覚えてる貴族ってのは、なかなか好感度高いぞ。さすが攻略対象キャラ)  フタミはディオルフの評価を、少しだけ上げる。貴族は平民をどうでも良いと思っている人が多いが、彼はその類ではないようだ。 「あの、ディオルフ様。これ……」  ロビンがチラリとフタミのほうを見ながら、先ほどの果物のカゴを差し出した。 「ああ、済まないな」  そのやりとりに、フタミは先ほどのロビンの様子に思い至る。 (ああ、なんだ。ディオルフのために用意しておいたものだったのか。そりゃあ、悪いことしたな)  フタミはそのことには触れず、自分の買い物を済ませてしまうことにした。こうしてのんびりしていられる時間は少ない。イチルあたりはヤキモキしているかもしれないのだから。 「じゃあ、代金な。これで良いか?」 「あ、はい。待ってください。えーと……パンが銅貨30枚で、卵が……」  指を折り曲げながら数えるロビンに、フタミは笑みを浮かべながら待つ。 (やっぱ、電卓欲しいよな~。あんなのすぐ作れるんだし、作っちゃおうかな)  電卓の仕組みはいたってシンプルである。信号のオンとオフを用いる二進法で計算が行われる。それを人間が解りやすいように表示しているに過ぎない。機械に詳しいフタミにとって、それほど大変なものではないのである。  ロビンが計算をしている間、じっと待っていたフタミの頬に、視線が突き刺さる。 「ん? なに?」 「いや――――そう言えば、この前のクッキー缶……」 「あっ。それ、あんま言わないで貰える? イチルに勝手に持って行ったって怒られてさあ。どうせヨツギのおやつにしかしないくせに」 「は? ああ――――」  ディオルフにクッキー缶を手渡した後、寮に戻ったイチルに、クッキー缶の行方について問い詰められたのだ。寮にそれなりの数を持ち込んでいるのを知っていたため、まさかすぐにバレて怒られるとは思ってもみなかった。  イチルとしては、安易に商会の商品をばらまきたくないという気持ちがあり、何かあれば贈り物として使えると考えているらしい。それ以外は、基本的にモブ同盟四人のおやつ―――主にヨツギの。である。  最年少で末っ子のヨツギに対して、イチルはどうにも甘いのだ。社畜だった社会人の彼からすると、高校生で転生してしまったヨツギのことを、可哀想に思えるのかもしれない。それを言ったらフタミだって大学生だったのだし、少しは優しくしてくれても良いのに。と思っている。 「お待たせしました! 合ってます!」 「お。ありがとうな。じゃあ、これは小遣いってことで」  そう言って銅貨を手渡し、食材の入ったカゴを抱える。ディオルフは何か言いたそうな顔をしたが、フタミは気づかないふりをしてそそくさとその場を後にしたのだった。

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