7 / 9

6話 【飯テロ】外カリ中フワ!丸太パンで作る「冒険者の特製サンド」が旨すぎた。

 食材の入ったコンテナを抱え、フタミはいそいそと寮の近くにある建屋へと向かう。 (いや~、めっちゃディオルフとエンカウントするんだが? 危ない危ない)  徐々に知り合いゲージが溜まっているような気がしてならない。あまり関わるとなにかフラグを折ってしまうかもしれないので、これ以上関わるのは危険だ。 (しかし、元々ディオルフの家で働いていたとは……。また遭遇したりしないよな?)  ロビンに会いに行ったのは、さすがにたまたまだろう。公爵令息が、そんなに頻繁に下男の元を訪ねるとは考えにくい。流石にもう会うこともないだろう。そう思い、建屋の中へと入っていく。  この建屋は、共同のキッチンが備え付けてある施設になっている。名目としては食堂を利用しない生徒や、食堂が休みになる長期休暇の際などに利用するものらしく、魔石コンロのほか、オーブンや氷室箱なども揃っている。ちなみに魔石コンロというのは着火だけが魔石で自動に行えるという代物で、燃料は薪である。これでも魔導コンロが登場するまでは最新式だったもので、王都のシェアはまだまだ魔石コンロが主流である。氷室箱というのは、上段に大きな氷を設置し、その冷気で食材の鮮度を保つ程度のものだ。こちらはスライムを利用して断熱してあるため、クーラーボックス程度の能力がある。 『日の本商会異世界出張所』の魔導コンロや冷蔵庫は言わずもがな、地球のレベルにかなり近い代物なので、『日の本商会異世界出張所』がいかに便利アイテムを出しているかが解るというものだ。  なお、オーブンも当然薪である。フタミはこの設備でまともに何かを作る自信がない。大学時代にはそこそこ自炊―――チャーハンやカレーといったものだが―――をしたものだが、ここで料理をする気にはとてもなれなかった。  この施設は、ゲームでは主人公のオリシアが攻略対象にクッキーを焼くというイベントの為に用意されているのではないかと、フタミたちは思っている。攻略対象の一人であるこの国の王子、レヴァン・ラローズ・グローリーは、オリシアのクッキーに心を奪われる男の一人である。彼を攻略する場合、クッキーを渡すのが必須のイベントとなる。逆に言えばクッキーを食べさせる機会がなければ、絶対に攻略は出来ない。必須フラグというやつだ。 「よいしょっと。とりあえず氷室箱に突っ込んどけば良いかな。パンは―――この辺でいいか」  パン以外の食材を氷室箱に入れ、使用者の名前を書いた札を掛けて置く。札を忘れた場合、勝手に使われても文句が言えない。パンの入ったカゴは、テーブルの上に置いておく。 「しかし、前途多難だなあ。食堂の料理人募集してたら、うちの社員送り込むのに……」  これからの学園生活で、どれだけ食堂を利用することになるのか―――。そう思うと、気が重い。 「よし。学園前に飲食店出そうって、イチルに相談しよう」  それが良いに違いない。フタミたちも食べに行けるし、ステラ学園の生徒たちも利用するだろう。それが評判になれば、寮のメニューも自然と変わっていくかもしれない。そんな密かな期待を胸に、フタミは建屋を後にしたのだった。  ◆   ◆   ◆ 「ハイ、皆さんこんにちは! 今日は冒険者の朝の定番、「ログブレッド」を使った、シンプルだけど最高にそそるサンドイッチを作っていきます。この、丸太みたいにごろんとした無骨な形がたまらないんですよね。それじゃあ、やっていきましょう」  コロンと丸太を転がしたような形状のパン――「ログブレッド」と呼ばれている、フタミから見るとどう見てもコッペパンなパンを前に、イチルが笑顔でそう切り出す。 「絶対にユーチューバーみたいに始まるのな」  フタミは思わず突っ込みを入れつつ、調理を開始したイチルを見守る。ミツハは自然と助手の立ち位置になって、イチルが使う道具を流れるように渡していく。そんな様子を尻目に、ヨツギは本を捲りながら自分の世界に入っている。時々ちらちらと様子を窺っているので、気になっているが口に出せないという所だろう。 「まずは主役のログブレッド。これ、外は少しパリッとしてますけど、中はふっかふかなんです。ここに、思い切って真ん中からナイフを入れます。「スゥーッ」と刃が入るこの瞬間……いいですね、小麦の香りがふわっと立ち上がります。切り離しちゃわないように、底の皮一枚残すのがポイントです」 「切っちゃったらどうすればいいんですか? イチル先生」 「諦めますっ!」 「諦めるんかい」  ツッコミを入れている間にも、調理工程は進んでいく。野菜をマリネし、ハムを薄切りにし、パンに挟んでいく。フタミが想像していた何十倍も、オシャレで素敵なサンドイッチが完成していた。 「わお。インスタ映え。めっちゃ良いじゃん」 「ふふん。ここにカメラあったら写真撮るのに」  イチルはそういって胸を張る。社畜時代、料理が趣味だったイチルは、たまの休みになるとどこかに食べに行って研究したり、家に籠って料理を作ったりするのが好きだったらしい。 (きっとイチルのスマホって、食い物ばっかりだったんだろうな)  と、なんとなく想像してしまう。ちなみにフタミの写真フォルダは殆どがスクショだった。ゲームのリザルト画面や、SNSでバズっていた投稿、会話ネタなどが殆どだ。そのほかに写真となると、街で見かけた変なものや近所の猫、大学の講義の板書、お知らせを撮影したもの。あとは筋トレにハマっていた時の日々の観測記録の自撮り写真のみである。ちなみに筋トレは一週間だけやって、あとは二度とやらなかった。 「イチル、これは半分に切ればいいのか?」 「ああ、うん。このあたりでズバッとお願い。ミツハ」 「解った」  ミツハが手際よく、サンドイッチを半分に切り分ける。その間に、イチルはお茶の用意も始めたようだ。  フタミはそれを見て、本を読んでいたヨツギの襟を引っ張る。 「ヨツギ、出来たってさ。テーブル用意しよう」 「ん。お、おなか減った」 「おうおう。イチルに感謝だよな」  そう言ってポンポンとヨツギの肩を叩いていると、ミツハが真面目腐った顔でサンドイッチが乗った皿を差し出す。 「フタミも」 「おん?」 「フタミも、食材探してきたから」 「あー……。おう。だな。オレにも感謝しろよー!」 「フタミ、て、照れてるし」 「照れてねえっ」  気恥ずかしさに目を逸らしたフタミに、三人は目を細めて笑っていた。

ともだちにシェアしよう!