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12話 残り香を纏い
結局、フタミとディオルフは随分長い時間を、調理室で過ごしてしまった。ディオルフとの雑談は思いのほか楽しく、話が弾んでしまったのだ。
いよいよ帰ってベッドに潜り込まなければまずいという時間まで共に過ごし、眠気で木から滑り落ちそうになりながらなんとか部屋に戻ったフタミは、そのままベッドにダイブして朝までぐっすりと眠りこけたのだった。
「う、ん……」
カーテンを閉め忘れたせいで、ダイレクトに朝日が顔面を直撃し、フタミは強制的に覚醒する。モゾモゾと布団の中でまだ眠いと抵抗していると、フワリと甘い香りが鼻をくすぐった。
(ん……。ディオルフ……?)
イケメンに抱き締められるのを幻視して、慌てて飛び起きる。
「うおっ……! あ、ガウン……返すの忘れた……」
どうやらガウンに染み込んだ匂いで、ディオルフを思い出したらしい。肌触りの良さと、彼の香りに、フタミはどぎまぎしながらガウンを撫でる。
(めっちゃ柔らかい……気持ちいい……)
思わずとろんと顔を緩ませ、ガウンに頬を寄せようとしたところに、声がかかる。
「フタミ?」
「うひゃ!」
フタミはベッドから跳び跳ねるようにして叫んだ。振り返れば、まだ眠そうな顔をして、ヨツギが布団から顔を出していた。
「ヨツっ……。驚かすなよっ」
「ま、眩しい」
「ああ、悪い」
そっとカーテンを閉じてやり、ヨツギのベッドに腰掛ける。ヨツギのフワフワした癖毛を撫でてやると、嫌そうに顔をしかめられた。
「まだ早いから、寝てな」
「ん……。フタミ、しょ、醤油の匂い、する」
「あー……。ちょっとな」
「イ、イチルは気づいてない」
「うん。内緒なー」
苦笑して、ヨツギの髪を弄ぶ。どうやら抜け出したことも気づいているようだ。この末っ子は、少し眠りが浅い。
「授業、慣れたかよ?」
「な、慣れない……。好きじゃない……」
「でもヨツ、魔法好きだろ」
「ま、魔法は、面白い。けど、は、話しかけられるの、す、好きじゃない」
「ん。良いだろ。好きじゃなくても、一緒にいたいヤツと居りゃ良いんだ」
ポンポンと背中を叩いて、ベッドから立ち上がる。ヨツギの視線が追いかけて来たので、まだ話し足りなかったのかも知れない。
ベッドに戻ろうとして、フタミは身に纏ったままのガウンに目をやった。柔らかく上質な素材だが、よく見れば刺繍は所々解れていて、着古された品だと分かる。
(大事なもの、かな?)
あるいは、フタミが知らないだけでヴィンテージみたいなものかも知れない。
(イチルに見られたら、絶対に突っ込まれるよ……。隠しておかないと)
それから、ディオルフに返さなければ。学校で返すのは目立つ気がして、どうやって返そうかと、フタミは頭を悩ませるのだった。
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